拉致被害者の遺骨を提示できない理由

 そして、さらなる問題点として、拉致被害者が北朝鮮体制に適応できない場合、政治犯収容所に送り込むという点がある。

 この場合は、拉致被害者に対する管理は、対南機関から国家保衛省に移る。行動や発言を誤った場合、拉致被害者は生きて出てくることのない北朝鮮政治犯収容所に直行することになり、人間以下の強制労働を課せられ、死亡後は収容所内の集団墓地に埋葬される。

 北朝鮮政府が死んだと主張する拉致被害者の遺骨をまともに提出できないのは、このためである。いつ、どこで、どのように埋葬したのか、数多くの人々がまとめて埋葬されている集団墓地では、遺骨を探し出すことが事実上、不可能だからだ。

 このように、20世紀の冷戦時代に起こった北朝鮮政府の日本人強制拉致問題は、21世紀の今でも、解決されないままだ。

 北朝鮮政府は、日本人拉致事件を隠すこともしないが、謝罪する姿も全く見せない。しかも、金正日氏は2002年の「日朝首脳会談」で拉致事実は認めたが、それは北朝鮮政府が主導したことではなく、北朝鮮特殊機関内の一部の人間が、個人的な英雄主義に陥ってやったことだと、詭弁にもならないような言い訳をしている。

 多くの人々の人生を、自分勝手に変えておきながら、いったい何を言っているのか。

 日本社会にとって重要な未解決問題として今も続いている北朝鮮政府による日本人強制拉致問題。それは、対南赤化統一を目的とした工作過程から始まった、日本人の人権を徹底して無視した、北朝鮮政府の反倫理的な人権蹂躪行為である。