韓国の文在寅前大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 自らの目的達成のために自国民や脱北者までを北朝鮮に「売り渡して」いた文在寅政権の実態が明らかになりつつある。

 韓国の検察が、2020年9月に北朝鮮が黄海において韓国水産部の職員を殺害した事件の捜査を遅まきながら本格化させていることについてはすでに触れてきたが、これに続いて、脱北漁師らの亡命希望を文在寅政権が無視して北朝鮮に強制送還した事件でも捜査を本格的に乗り出したのだ。

 驚くべきことに、この2つの事件を先導したのが青瓦台の国家安保室、北朝鮮に対する諜報活動を担うべき国家情報院、対北朝鮮政策の中核を担う統一院であった。これらの機関・組織が北朝鮮に最大限の配慮をするような有様では、韓国国内において北朝鮮の対南工作を防ぐ機関はないも同然であり、韓国の安全保障は北朝鮮の思いのままとなってしまうだろう。文在寅政権下の韓国は、それほど北朝鮮に対して無防備になっていた。

 その実態にメスを入れるべく尹錫悦政権下の検察が捜査を開始すると、これまでの北朝鮮への忖度に関与していた国家情報院や統一部のトップが海外に逃避する動きを見せている。9月になれば、検察の捜査権が大幅に縮小される改正刑事訴訟法が施行される。文在寅政権の末期に駆け込みで成立させた法律だ。国上院や統一部の幹部はそれまで逃げ切ろうとしているとしか思えず、捜査に支障を来すのではないかとの懸念が芽生えている。

韓国の安全保障を阻害した文在寅政権の北朝鮮政策

 この2つの事件は、文在寅政権による人権無視、国民の保護を放棄する行為として責任が追及されるべきである。また、これらの事件に関連し、職権乱用と虚偽の公文書作成、証拠隠滅、殺人ほう助罪などの不正行為があった場合には訴追されるべきであろう。

 それとともに重要なことは、文在寅政権の北朝鮮対応の総括である。これらの事件で明らかなことは、文在寅政権がいかに北朝鮮に配慮し、歩み寄りの姿勢を示しても、北朝鮮は韓国との関係を改善する動きは微塵も見せないことである。むしろ韓国の好意をタダで手に入れ、さらなる要求を突き付けてくる。

 わけても重要なのは、2018年、文在寅政権が米韓合同軍事演習を自粛し、さらに北朝鮮と軍事合意を結んで38度線沿いの偵察飛行を中止したことだ。それにも関わらず、北朝鮮は核・ミサイル開発を高度化し、一層の挑発行為を繰り返してきた。結局、文在寅大統領の対北朝鮮政策は、国家の安全保障を危険にさらす行為であり、国民を犠牲にしかねない利敵行為だったのである。

 この2つの事件を教訓として尹錫悦政権は、文在寅政権の北朝鮮への利敵行為の実態を明らかにし、二度とこのようなことが繰り返されないよう厳しく処断するとともに、北朝鮮に対する政策を見直していくべきだろう。