撮影/西股 総生

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

はずさない城、犬山城と名古屋城(前編)https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70985

名古屋城と犬山城は、親分-子分の関係

 さて、犬山城の次は名古屋城。地下鉄の市役所駅から出ると、二ノ丸の大きな堀と立派な石垣が目に飛び込んできます。反対側をふり返ると、愛知県庁の建物はてっぺんがお城の形をしています。さすが、「尾張名古屋は城でもつ」と称されただけのことはあります。

戦前に建てられた愛知県庁の本庁舎は、上部が名古屋城。

 名古屋城は、徳川家康が息子の義直のために築かせた城で、御三家の一つである尾張徳川家が代々居城としました。実は、犬山城は尾張藩の家老だった成瀬家の城。大名家の家老が江戸時代を通して城を持っていたのは、レアケース。

 要するに、名古屋城と犬山城は、親分-子分の関係にあるわけです。ですから、城のスケール感がまるで違います。歩いてみると実感(というより痛感)しますが、犬山城とちがって名古屋城は、なかなか本丸に着きません。石垣のスケール感も、全くちがいます。

名古屋城は犬山城とは城全体のスケール感、天守や石垣のボリューム感がまるでちがう。

 ここで、犬山城の石垣の写真と、目の前にある名古屋城の石垣とを、見くらべてみましょう。石のサイズも積み方も、同じではありませんよね。名古屋城の方が、一つ一つの石の形をていねいに整えているようです。とりわけ、石垣の角っこの積み方がちがいます。

 石垣を眺めながら、広い城内を歩いて天守を目ざしましょう。犬山城の天守は、屋根が3枚重なる3重天守でしたが、名古屋城は5重。見るからに堂々と大きくて、さすが親分です。犬山城天守の写真を見返しながら、両方のちがいを比べてみましょう。小柄でシックな犬山城天守と、重量感あふれる名古屋城天守。あなたは、どちらがお好みですか?

城内は立木や街灯などジャマものも多い。ちょっと立ち位置やアングルを工夫すると、ジャマものを画面から排除できる。

本物にほぼほぼ忠実に再現された天守

 ただ、名古屋城の天守は残念ながら本物ではありません。本物は、第2次大戦のときの空襲で焼けてしまいました。当時、城内に軍の施設があったからです。いま建っている天守は戦後になって、外観は本物にほぼほぼ忠実に再現された、鉄筋コンクリート製です。

 この天守は、現在は耐震上の問題から中に入ることができません。でも、ガッカリすることはありません。なぜなら、天守とともに空襲で失われた本丸御殿が復元されていて、こちらは主要部分を見学できるからです。

本丸には御殿も復元されている。御殿は木造で主要部は見学できる。

 実は、日本各地の城を訪ねてみても、本物の御殿の建物が残っているところはほとんどありません。御殿は天守以上にレアなのです。その御殿が復元されているのですから、見ない手はありません。

 面白いことに、この本丸御殿は尾張徳川家の殿様が暮らすための建物ではありませんでした。では、誰のための建物かというと本家、つまり将軍のための建物だったのです。もともと名古屋城は、徳川将軍家が戦いに備えて築いた戦略基地。その基地を、分家である尾張徳川家に預けているので、本丸は将軍用で、殿様の御殿は二ノ丸になるのです。

本丸の堀と石垣、城門。もともとは軍事要塞であることが実感できるアングルだ。

 名古屋城には他にも、櫓や城門、石垣や堀など、見どころが満載です。城の好きな人ならば、丸一日歩き回ってもあきないでしょう。でも、最初からあまり欲張っても疲れてしまいますから、最初は天守をメインに、疲れない程度に歩けばよいでしょう。

名古屋城の清洲櫓は全国でも屈指の堂々たる三重櫓。写真5は空堀だが、こちらと写真2は水堀。なぜちがうのか、現地で確かめてみよう。

 そのうち、城のことがわかってくると、いろいろな所に目が行くようになります。そうしたら、また訪れればよいのです。名古屋城は逃げたりしないから、大丈夫。名古屋なら、他の地方への旅行や出張のついでに、寄ることもできます。他の城もあちこち見て歩き、城の知識が増えてから採訪すると、見え方も変わって自分の「成長」を実感できますよ。

 何より、せっかく名古屋に来たのですから、他にも見どころや味わってみたいグルメなど、いろいろありますよね。それらと組み合わせて、楽しい旅にすることが一番です!

本丸の南西隅櫓。後ろに見える天守と屋根の色がちがうのはなぜ? 城には不思議がいっぱいだ。

 

☆お知らせ☆
旅行会社iTSの企画で9月23日(金祝)・24日(土)、筆者(西股)が犬山城&名古屋城をご案内します。ビギナーさん大歓迎。この記事の謎解き・答え合わせをしながら、城を見るコツを1からていねいにご教授します。

詳くしはiTSのHPへ
→ https://i-travel-square.tokyo/inuyama_nagoya/