円安に伴う賃上げは岸田政権を後押しするかもしれない(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

日本が円買い介入を始めても円安は止められない

 ごく最近、米国の大手ヘッジファンドのトップから「日本はなぜ円安を受け入れないのか?」と質問された。同時に彼は、「日米金利差が理由と言うが、それでは過去の円相場を説明できないではないか」として説明を求めてきた。

 この議論の顛末は最後に書くとして、参院選が始まって物価高が一つの争点となりつつある中、物価高の原因である円安問題を冷静に考える必要がある。つまり、「円安は悪なのか」であり、「円安の原因は日米金利差なのか」である。

 本件は、日本銀行黒田総裁の「家計は値上げ許容度が高まっている」との発言が炎上したこともあり、日本国内外での注目度が高まっている。

 しかし、過去の円相場の動きと日銀の為替介入等を振り返れば、今の円安は、インフレ対策で必死の米国がドル高を望んでいる以上、財務省財務官や日銀総裁が問題だと考えて円買い介入を始めても(および利上げを始めても)、止められるというものでもないことは明白である。

 では、逆に円安を止める必要はあるのだろうか。物価上昇に対して打つ手とは何なのだろうか。本稿ではこれを考えてみたい。

日米金利差と為替水準に相関はない

 まず理解すべきは、日米金利差と為替水準に明確な相関はないということだ。

 円相場の動く原因として「日米金利差」があるのは事実ながら、一般には為替トレーダー(ドル/円を売買して利鞘を稼ぐ人のこと)が自分たちのポジションを作る際、または利益を確定する際の理由として使うことが多い。メディアで一般的に使われるのは、インタビュー相手が為替トレーダーであることが多いからだと言われている。

 しかし、それは円相場が上がったり下がったりするからであって、一本調子のトレンドの際に「日米金利差」を理由として使い続けることには無理があり、実際にもそうはしない。

 また、経済理論として「金利と為替の二つを同時にコントロールすることは不可能」という考え方はあるが、例えば「日米金利差が1%開くと3円の円安が進む」というような相関があることを裏付ける理論はない。

 さらに、1カ月ほど前に129円となった頃には、「日米金利差を考えれば130円程度が限界」という言葉がまことしやかにささやかれていた。それにもかかわらず、それから現在までに7円の円安が進んだことを考えれば、そこには何の根拠もなかったことが分かる。

 加えて、冷静に過去を振り返れば、1985年9月までは1ドル=200円台だった為替相場が、プラザ合意によるG5諸国(米英仏独日)の協調介入でドル以外の通貨の価値を上げることを決めた3カ月後には100円台となった。

 このように、米国の実質的な保護国として生きる日本の円相場は、米国発のイベントによって、連続性のない動きをしてきたという歴史がある。

 つまり、円相場を見る際には、「日米金利差」などのように誰もが信じている話、あるいは米株の暴落のように市場を信じ込ませやすい話題は少なくないものの、別の動きの(しかも、それは金融・為替理論とは異なる経済分野の)話があることを忘れてはならない。