(小林偉:放送作家・大学講師)
結婚式ではお馴染みのあの名曲も
先日、とある番組に武田鉄矢が出演した際、自らの代表作である『3年B組金八先生』の主題歌「贈る言葉」について、こんなことを語られていました。
「世間一般では“卒業ソング”と思われているけど、実は違うんです。あの曲を作ったキッカケは失恋。悔しさと、自分をフッた相手への恨みつらみを込めて、福岡の天神で書いた歌なんですよ」
この話を聞くと、♪サヨナラだけでは寂しすぎるから、去り行く貴方へ贈る言葉・・・という有名なフレーズも別な響きを持ってくるように感じませんか?
こんな風に、音楽には何となくの雰囲気と曲が流れている時のシチュエーションなどで、真の意味を誤って解釈していることって少なくないように思います。
特に歌詞が外国語の洋楽の場合、こうしたことは頻繁にあるもの。その最たる例が・・・結婚披露宴で流されている曲ですよ。メロディが美しく、オシャレな雰囲気に包まれているため、一聴すれば心地よく響いてきますが、実は披露宴には相応しくない歌詞だったりすることが、筆者の経験からも本当に多いです。
その典型的な曲が、♪アンダァ~~~~イャァ~・・でお馴染みのこちら。
「I WILL ALWAYS LOVE YOU / WHITNEY HOUSTON」
結婚披露宴では本当によく選曲されています。しかも、新郎新婦の馴れ初めを構成したビデオのBGMの“ここぞ”っていう時にかかったり・・・しかしこの曲、実は恋人同士の別れを歌ったもの。簡単に歌詞を翻訳してみると・・・
「このまま貴方のそばにいても、私は邪魔にしかならない。だから行くわ。でも分かってる。これからどんな道を歩んでも、貴方のことを想っている。私は貴方のことをずっと愛し続けるって(=And I Will Always Love You)」という具合。
言うまでもなく、結婚披露宴という場では、ご法度ナンバーです。
ちなみにこの曲、いまやホイットニー・ヒューストンの代名詞みたいな感じになっていますけれど、実はカバーソング。オリジナルはカントリー界の大御所女性シンガー、ドリー・パートンが1973年にリリースしたもので、『テキサスの赤いバラ』という映画の劇中歌でした。
カントリーの曲を、バリバリのソウルシンガーであるホイットニーがカバーしているのも凄いことですが、ホイットニー・ヴァージョンも映画『ボディガード』の主題歌だったというのも、面白いですよね。
実は、ホイットニー・ヒューストンにはもう1曲、結婚披露宴NGソングがあるんです。
それがこちら。
●「SAVING ALL MY LOVE FOR YOU / WHITNEY HOUSTON」
「すべてをあなたに」という邦題がつけられたこの曲も、結婚披露宴では定番化している感が強く、筆者は何度も会場で耳にしています。
これは1985年にリリースされた、ホイットニーのデビューアルバムに収録されたもので、シングルとしても大ヒットを記録している、名バラードナンバーですが・・・こちらの歌詞を冒頭から訳してみますと・・・
「人目を盗んで逢う時だけが、私たちの時間。でも、貴方には大切な家族がいる」
・・・ン? いきなり来ましたねぇ・・・さらに訳していくと・・・
「貴方の優先リストの最後にならないよう努力はした。どうしても他の男じゃダメなの。だから、私の愛は全て貴方のために取っておくわ(=Saving All My Love For You)。一人でいるのは楽じゃない。友達は“自分だけの男を作れ”って言うけど、そうしようとするたび、泣いてしまう。そんなことなら、一人でいる方がマシ」
かなり重症ですねぇ・・・そして・・・
「貴方は“駆け落ちしよう。愛はいつだって、君を自由にするから。もう少しだけ待っていてくれ”って言っていたけど、それも古ぼけた幻想だった。さあ、もう用意しなきゃ。貴方が、あのドアから入ってきたら、あの感覚が戻って来る。今夜は二人だけのもの。一晩中、愛し合いましょう・・・」
そして最後は・・・
「私ほど、貴方を愛している女はいない。だって、今夜も最高の気分じゃない。一晩中、愛し合いましょう。私の愛は全て、貴方のものだから」。
・・・と、もうお分かりいただけたと思いますが、不倫している女性の開き直りとも言える独白なんですねぇ・・・。
最早、芸能人のみならず、広く一般にも流行している(?)道ならぬ恋愛ですけど、ここまで堂々と歌われると、ある意味、爽快(笑)。
ですがコレ、間違っても結婚式で選曲したらダメですね。