北朝鮮による拉致問題に関して、韓国のソウル中央地裁は北朝鮮と金正恩総書記に対して損害賠償の支払いを命じた(写真:AP/アフロ)

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

 朝鮮戦争時に北朝鮮に拉致された被害者の遺族が、北朝鮮と金正恩(キム・ジョンウン)総書記に対して損害賠償を求めた訴訟を起こした。これを受け、ソウル中央地裁は5月20日、原告12人に対して一人当たり最大3000万ウォン(約300万円)を支払うよう判決を言い渡した。

 原告の代理人を務めているのは、保守系弁護士団体「韓半島(朝鮮半島)の人権と統一のための弁護士会(韓弁)」だ。

 韓弁とは、2013年9月10日に結成された団体で、韓国のアイデンティティ守護、自由民主主義と市場経済を基盤とする共同体の市民的価値実現、自由・平等・幸福を追求する実質的法治主義の確立、北朝鮮の人権を含む韓半島の人権問題改善、自由民主的基本秩序に基づいた韓半島の平和的統一の基盤を作ることを目的に活動している。

 当然のことながら、北朝鮮側は今回の訴訟に応じていない。だが、裁判所は公示送達(※)によって訴訟について通知した上で、判決を言い渡している。おまけに韓国の憲法上、北朝鮮は自国領だ。現在は互いに行き来できない仲だが、韓国にとって北朝鮮は“朝鮮北部にある独立した地方政府”に過ぎない。そのため裁判権が及ぶ。

※公示送達: 相手方を知ることができない場合や、相手方の住所・居所がわからない人、相手方が海外に住んでいてその文書の交付の証明が取れない時などに、法的に送達したものとする手続きのこと

 韓国の裁判所が、北朝鮮側にどのようにして賠償金を支払わせるのか、現時点では不明だ。

 2020年7月に、朝鮮戦争で北朝鮮軍の捕虜となった元韓国軍兵士2人が北朝鮮に対して訴訟を起こして勝訴したことがあった。この時、韓国の裁判所は南北経済文化協力財団に賠償金を支払わせるため取り立て命令を下したが、財団側の抗告が認められて実現しなかったという例がある。

 今回もこれと同じように、賠償金の支払いを命じたところで、被告側の抗告が認められて支払われない可能性が高いだろう。