南米大陸の北の中心。アマゾンの真ん中にマナウスという町がある。19世紀後半にパリのオペラ座を模して建てられた劇場にはヨーロッパから一流のオペラ歌手が招かれ、辺境の地は栄耀栄華にわいた。
いまここ!
アマゾン川は南米大陸を横断するように大西洋に流れ出るが、このマナウスからサンタレンを経て大西洋側の街、ベレンまで船が出ている。人を乗せるが、客船というより、むしろ人を乗せた貨物船と言える。
アマゾン川の要所であるマナウスの港は大幹線航路の主要ターミナルであり、運搬船、客船がぎっしりと岸に停泊している。私の予約したベレンまでの船は3階建て。置き引きが多いのだろう。すでに多くの人が、場所を確保してはいたが、皆、荷物を鍵付きのワイヤーロープで船の柱に固定させていた。
船は、出発2時間前からさらに混みだし定員オーバー。それでも次々に人が押し寄せる。私のいる3階のデッキは、1階、2階に比べて料金が高いため、定員数が守られているようだが、1階、2階は貨物と人で足の踏み場もなく、混雑した電車の中にいるのと同様に、身動きすら取れない状況だ。
船は夕方に出航したが、高温多湿の船内は吊るされたハンモックが密接し、吹き抜ける風もない。船は夜中、早朝とアマゾン川流域の街に停泊し、その都度、小麦やトウモロコシ、油や生活用品などを、積載したり、降ろしたりしながら、川を下る。
死ぬ思いで3階のデッキから飛び込んだ
早朝、アナウンスでたたき起こされる。アマゾン川流域の第三の都市、サンタレンに到着したようだ。接岸した途端、船の上を麻薬探知犬の黒いラブラドールリトリバーが走り回る。コロンビア、ベネズエラからコカインが運ばれていないか、取り締まっているようだ。6人ほどの警官が船内に乗り込み、ちょっとした緊張が走る。
釈迦のタトゥーをしたレゲエ風のおばさんが荷物ごと連行されていったが、他は、特に何もない。
停泊して6時間後の昼下がり、ブラジル人の乗客の1人が、恋人の前で愛の証しに、その勇気を見せようと、3階の船のデッキから川に向かってダイブするという。高さは10メートル近くある。本当に飛び込むのかと覗き込んだ瞬間、男は頭を真っ逆さまにして宙を舞っていた。
その無謀さに呆然とすると、周りの乗客が私に向かって「次はオマエが飛び込め!」とはやし立て、拍手がわいた。私は尻込みしたが、3階のデッキの乗客のほとんどが注目していたので、私は死ぬ思いで茶色い水面に向かって頭から飛び込んだ。
デッキから脚が離れた瞬間、何とも言えぬ快感を覚えた。脳内に快楽物質が放出されたかのような、時間的にはほんのわずかな着水するまでの瞬間、実に凝縮したというか、ゆったりとした時間が流れていた。