(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)
北朝鮮では現在、コロナの爆発的な感染拡大によって何十万人も苦しんでいる。この状況を沈静化させるため、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は中国から医療品物資を輸入。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領も、就任後の初演説で北朝鮮へのワクチンや物資の援助を表明した。
ただ、ミサイル実験で近隣諸国を威嚇している北朝鮮に、闇雲に援助物資を送って大丈夫なのだろうか。今回は、長年、キリスト教の布教のため北朝鮮に援助物資を送った牧師の末路を話したい。
林賢洙(イム・ヒョンス)牧師は、1997年から18年間、北朝鮮を約150回ほど訪問し、北朝鮮住民のための大規模な人道支援事業に勤しんだ韓国系カナダ人牧師だ。
ところが、2015年1月、北朝鮮を訪れたイム牧師は突然、北朝鮮保衛部に逮捕され、「特大型国家転覆陰謀罪」によって、死刑宣告を受け、949日間強制収容所に収監された後、釈放された。
18年間にもわたって北朝鮮を訪問し、5000万ドル以上の対北朝鮮支援事業を手がけたイム牧師が、なぜ北朝鮮保衛部に逮捕され、死刑宣告を受けることになったのだろうか。
北朝鮮の消息筋に寄れば、イム牧師が逮捕された背景には、北朝鮮の権力機関の間に起こった利権問題がある。
北朝鮮で人道支援事業を主管しているのは統一戦線部だ。具体的には、その傘下にある「朝鮮赤十字委員会」が北朝鮮に対する人道支援事業を担当している。
18年間に5000万ドル以上の支援事業を実施したイム牧師は、統一戦線部の立場から見れば、それこそ逃したくない重要人物である。ゆえに、統一戦線部は常にイム牧師には友好的に対応していたし、イム牧師も統一戦線部とは継続的に友好関係を維持してきた。
それにもかかわらず、イム牧師が逮捕されたのは「敵共局」による告発のためだ。敵共局とは、「敵を、心理的に瓦解させ、共産化させることを目的として作られた局」である。現在は北朝鮮軍偵察総局の傘下で、韓国を相手に、放送とビラおよび印刷物などを散布する心理戦任務を専門に担当している機関だ。
それでは、なぜ敵共局はイム牧師を告発したのだろうか。