サッカーW杯の看板やポスターがカタール国内の至る所に掲示されている(筆者撮影)

 ワールドカップを7カ月後にひかえたカタールを歩くと、至るところに掲げられた大会のロゴが目に入ってくる。

 空港の大きな看板に、市街地へと続く埃っぽい道路に、高層ビルの間に、カタール国旗と同じあのえび茶色のロゴが散りばめられている。カタールは過去にワールドカップクラスの世界的イベントを開催したことはない。同国の歴史で初となる大イベントを成功させるという心意気が、ドーハに降り立った瞬間から伝わってくる。

 ペルシャ湾を見渡す港町のドーハは国の東側にあるカタール最大の町だ。国の人口の半数以上がこの都市圏に住んでいる。お金持ちの首長も、移民労働者も、外国人観光客も、ビジネスもすべてがドーハに集中する。ワールドカップが行われる会場もすべてドーハ近郊だ。「コンパクトなワールドカップ」というのは今大会のテーマのひとつで、会場間の移動のしやすさは過去最高のものとなるだろう。4年前、飛行機と列車を駆使しロシアの広大な大地を駆け回った1カ月とはまるで異なる、新たなワールドカップ体験になるはずだ。

「移動が簡単なので、ワールドカップ中は1日に3試合を観戦することすら可能です」と大会組織員会は誇る。仮に1日に3試合を見ることができたとすれば、1大会を通じて見る試合数はとんでもないことになる。記録を目指し最多観戦を目指す強者も出てくるだろう。

伝統的建築様式を残す市場と超近代的ビル群

 アラブ世界はラマダンの時期に入っていた。カタールは国境を接する隣国サウジアラビアほどイスラム戒律に厳格ではないものの、当然ラマダンの掟は守られる。この期間は日中の活動は制限され、人々もあまり外を出歩かない。

 町の中心にある市場スーク・ワキーフを訪れた。3年前にこの場所を訪れた時の雰囲気とはまるで違い、市場の中には静けさが漂っていた。アラブ衣装の商人も、濃い髭の絨毯屋も、色鮮やかな鳥売りも、みな暇そうに椅子に座り、ただ時がすぎるのを待っている。

 食堂も閉まっていて、日中には外で食事もできない。テイクアウトは可能なのでそれをホテルで食べるしかない。いつもは賑わっているスーク沿いのレストランでは、テーブルの上に置かれた椅子の横で店主が何かの計算をしていた。スークに活気が戻るのは日が暮れてからだ。

ドーハ最大の市場スーク・ワキーフもラマダン期間中は閑散としている(筆者撮影)