「核共有」をタブー視せずに議論すべきと唱える安倍晋三元首相(資料写真、2022年3月1日、写真:つのだよしお/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 プーチン大統領による核恫喝言動に怯えた日本で、安倍晋三元首相をはじめとするいわゆるタカ派の人々から「アメリカとの核シェアリングをタブー視せずに(実現に向けての)議論をすべきである」といった主張が湧き上がった。アメリカで特にこの状況を歓迎しているのが、軍関係の対中強硬派の人々である。

 しかし、安倍氏の発言に対して、岸田首相や岸防衛大臣は「非核三原則を遵守するという日本政府の立場からは、核シェアリングは認めることはできない」と直ちに火消しに回った。核シェアリングの議論を封じるそうした日本国内の動きに対して、アメリカの上記の人々からは「日本防衛当局はこの機会を潰してしまうのか」と不満の声も上がっている。中でも、岸田首相が広島選出であり岸防衛相が親台湾派かつ安倍首相の実弟であることを知っている人々からの不満が強い。

アメリカにとっては「一石二鳥」

 アメリカ軍やシンクタンクなどの対中強硬派が日米核シェアリングの実現を期待しているのは、東アジア海域(東シナ海・台湾・南シナ海)での通常戦力においてアメリカ軍が中国軍に対して劣勢になりつつある現在、ごく当然な態度と言えよう。

 アメリカ海軍空母艦隊は日本海軍を全滅させて以来、これまで世界を睥睨(へいげい)してきた。しかし、もし今後数年間のうちに米中軍事衝突が勃発した場合、中国軍の強力な接近阻止戦力(対艦弾道ミサイルや極超音速対艦飛翔体をはじめとする各種対艦ミサイルを主たる戦力としている)によって第一列島線(九州から南西諸島を経て台湾に至りフィリピン諸島を経てボルネオ島に至る島嶼線)に接近することが極めて危険な状況に陥ってしまった。