東京都知事や運輸相を務めた作家の石原慎太郎氏が亡くなった。89歳だった。ジャーナリストとして長年、石原氏を取材し、親交もあった田原総一朗氏が追悼の談話を寄せた(JBpress編集部)。
自分に作家の夢を断念させた『太陽の季節』
石原慎太郎さんが亡くなったとの知らせが入った。いま僕は、非常にショックを受けています。大ショックです。
僕には高校生の時から小説家になりたいという夢があった。ところが僕が大学生の時に発表された石原さんの『太陽の季節』を読んで、大衝撃を受けた。
なぜかというと、僕なんかは実際に女性と交わったこともないくせに恋愛小説を書いていた。そこには、まったくリアリティがなかった。これに対して、石原さんの『太陽の季節』は、弟・裕次郎さんをモデルにして書いたと言われ、描写にものすごいリアリティがあった。と同時にこの作品は、それまでの常識的倫理をバーンとぶち壊してしまった。時代を変える作品だった。
当時の芥川賞の審査員は、「石原慎太郎ははじめからフンドシを着けないで出てきた、とんでもない男だ」と漏らしたと言います。それでも芥川賞を獲るんですからすごい作家だったし作品だった。結局、『太陽の季節』に圧倒された僕は、力量の差を痛感して、小説家になることを諦めざるを得なかった。