そこを左折すると、静かな住宅街のなかを緩い上り坂がつづいている。白毫寺へ至る最初の入口だ。そこを上がっていく。

 新薬師寺の標識も出ている。また十二神将像を見たくなり、ついでだからと寄っていくことにする(すぐ近くに入江泰吉の奈良市写真美術館もあるのだが、あいにくの休館)。新薬師寺は3回目だ。十二神将像は他の寺にもいくつかあるが、ここの十二神将立像(国宝)ほど迫力のあるものはない。一見の価値あり。ひとりの女性が案内人につかまり、延々と説明を聞かされていた。災難だ。

新薬師寺の十二神将立像(小川晴暘, Public domain, ウィキメディア・コモンズ)

 ふたたび白毫寺を目指す。標識は随所にある。が、ときどき消えるのだ。道が2本、3本に分かれるところがあるが、標識がない。なんだここはほったらかしか、と思うが、しかたがないからこっちが真っすぐだなと思った道を進む。

 以前、目的地までの道のりはただ消化するだけの退屈な時間と考えて、遠いなあ、などと思っていたのだが、ウォーキングをするようになってからは、その道のり自体を愉しむことができるようになった。1月6日、関東にそこそこの雪が降ったが、そのときも、レインウエアを着て、「雪中行軍だ」と、腕をしっかり振り、歩道をワシワシと1万2000歩(約9.6km)歩いたのである。愉しかった。

 はるか向こうに山が見える。細い道を左折右折を繰り返しながら、なおもだらだら坂を上っていく。坂道を上がりはじめてから30~40分ほど歩いただろうか、突然、白毫寺につづく階段が出現した。火野正平流にいえば「トウチャコ」である。

 山門までの階段を上り、境内に入ってみると思いがけない眺望が開けていた。

 眼下に奈良市内全景が広がり、思わず「ほお」と唸った。まさに絶景だった。