(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)
11月23日、韓国の第11・12代大統領だった全斗煥元大統領が、90歳で死亡した。メディアは先を争って1面のトップニュースに取り上げたが、とんでもないというか、その見出しに本当に驚いた。
「虐殺者の全斗煥、反省なく死す」
「光州事件の被害者団体『全斗煥の国家葬、一考の価値もなし』・・・『死で真実を葬ることはできない』」
「私がお金を受け取らなければ、企業が不安」・・・「全斗煥のその『賄賂』、結局没収できず」
洪水の如くあふれ出る記事を見て思うのは、全斗煥元大統領より、十倍、いや百倍は残酷で極悪な殺戮者かつ独裁者のことだ。
今日に至るまで、我々民族に、推し量ることのできない苦痛と死を与えつづけている、民族の敵。そんな金日成、金正日、金正恩の金一族も、当然、民族の呪いを受け、それ相当の代償を払わなければならないはずだが、彼らは全斗煥大統領のような扱いは受けていない。
私は全身に戦慄が走り、いても立ってもいられず、こうして筆を取った。
【参考記事】
◎金与正による初の軍隊視察が暗示している北朝鮮内部の地殻変動(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67851)
◎北朝鮮が「トランプの壁」を超える鉄柵を国境に張り巡らせる理由(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67798)
◎妹に操られる金正恩、徐々に判明し始めた北朝鮮内部の地殻変動(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67527)
私は、韓国に定着して18年になる脱北者である。この18年間で韓国社会を生きていくのに必要な基本的な教養は身につけることはできたが、韓国国民の胸の中に宿っている歴史観や価値観、文化的教養まではまだまだ体現できないでいる。
だが、これだけは分かっている。昨今の韓国社会を二割した、分裂と対立の頂点には全斗煥元大統領がいるという事実である。
今日のメディアの記事だけを見ても、全斗煥前大統領が罪をきちんと償わなかったと怒る理由は、たぶん4つある。
第一に全斗煥元大統領は自身のクーデターに抗議したデモ隊を鎮圧、虐殺した光州事件の元凶であること、第二にクーデターで政権を強奪した事実、第三に不正腐敗の親分であり、第四にそれにもかかわらず最後まで深い反省がなかったことだと理解している。
そこで私は考える。民主的な選挙で政権の座についても、多くの人命を奪った全斗煥元大統領は退任後、35年が過ぎても、彼は永遠に、政権強奪者、殺人魔、独裁者としての烙印が押され、死んでも許されることはないのだな、と。