ギリシャ・レスボス島の難民キャンプ。難民危機の際にはギリシャやイタリアに難民が押し寄せた(写真:AP/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 欧州における東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が崩壊したのは1989年11月9日のことだった。それから30余年、欧州で再び東西を隔てる壁が建設されることが話題となっている。舞台は中欧の大国ポーランド、隣国ベラルーシとの国境沿いに100キロ以上にわたって壁を建設する法案が10月30日に国会で可決、成立した。

 ベラルーシは5月、欧州連合(EU)から制裁を受けた。ルカシェンコ政権がベラルーシ領空飛行中のアイルランド航空機を強制着陸させ、機内にいた反体制派のジャーナリスト、ロマン・プロタセビッチ氏を拘束したためである。以降、ベラルーシと国境を接するラトビア、リトアニア、ポーランドに不法移民が押し寄せるようになった。

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 11月8日付の日本経済新聞の報道「『人の命を武器に』 ベラルーシがEUに送る不法移民」に詳しいが、こうした移民はイラクからの人々が多いようだ。さらに、シリアやアフガニスタン、アフリカ出身者なども多いとされる。彼らはEUへの移住を目指し、業者に代金を支払う。そして、業者は彼らをロシア経由でベラルーシに移送し、EU側の国境の近くに置き去りにしていくとのことである。

ポーランド国境で国境警備隊に拘束されたシリア難民。ベラルーシ経由でポーランドに入国した。こういった事例が相次いでいる(写真:ロイター/アフロ)
ベラルーシ経由でポーランドに入国したイラク人女性。小さな子供を連れている(写真:ロイター/アフロ)

 ベラルーシのルカシェンコ政権が不法移民を組織的に送り込んでいることは明らかだ。EUから科された制裁への対抗措置にほかならず、EUへの圧力を重視するロシアもそれに協力している。トルコも同様だが、EUと国境を接する国々はEUを目指す移民や難民の経由地となるため、彼らを「政争の具」として利用してEUに圧力をかける。

 ベラルーシが目論むように、不法移民を巡りEU内では軋轢が生じている。それは徹底かつ毅然とした対応を望む南欧・東欧の国々と、人道主義を掲げるEU本体との対立だ。