小野田さんが帯びていた使命

 映画『ONODA』では「ONODA」は、29年もの間なぜルバング島で過ごしていたのかがわかりにくかったので、補足しておこうと思う。「小野田寛郎」の使命・行動は、敗戦後、日本軍がひそかに体制を立て直し新たな軍事行動を起こし、ルバング島に再上陸する際の受け入れ環境づくりにあった。

小野田「私の最終任務は再上陸する友軍(日本軍)を、飛行場に利用誘導できるようにしておくゲリラ行動です。そのため、できるだけ住民が山に入れないようにし、上陸してきた友軍部隊が隠れる場所の確保もしていました。

 また周辺住民に私たちの存在を常にわかるようにしておく必要がありました。無線機をなくしていたので、友軍が上陸した際、我々との連絡点を確保する必要があったからです。そこで住民に、『あそこには日本兵がいて暴れているので近寄らない方がいい』とわからせておく。上陸した友軍が住民からその情報を得れば、私たちとどこで接触できるかがわかるように、です。

 そのため、設定したいくつもの連絡点に近づく住民がいれば威嚇射撃をして追い払う。フィリピン軍警察の討伐隊が入れば攻撃する。そういう地元とのトラブルを継続する必要があったんです」

 ルバング島はフィリピンの首都、マニラから直線で南西に約130kmと近いため、軍事上の重要拠点だった。およそ30km×9kmの細長い島で、面積は東京23区の約4割(255 平方km)。小野田さんはこの島の「連絡点」を確保し続けるため、住民が入っていないか、いればそこから追い出すための威嚇射撃という「任務」を続けていた。農業や牧畜としての土地利用、また漁業も認めるが定住させない。