現代社会ではストレスは避けて通れない。しかし、その過剰な蓄積は、胃潰瘍、高血圧など身体への影響だけではなく、鬱など心への影響が心配される。

 これにどう対応すればよいのだろうか。ストレス回避が不可能だとすれば選択肢は2つしかない。ストレスを解消するか、ストレス耐性を持つことだ。前者については次回、今回は後者について紹介しよう。

 ストレスに強い心と体を作るために非常に重要な神経がある。脳内のセロトニン神経だ。セロトニン研究の第一人者である東邦大学医学部の有田秀穂教授は、この神経がストレス耐性を高めるカギを握っていることを解明した。

セロトニン神経の強化でストレス耐性は高まる

 「150億もあると言われている脳の神経細胞の中で、セロトニン神経はわずか数万個しかありません。にもかかわらず、脳全体に情報を発信しているという点で非常に珍しい神経なのです」と有田教授は話す。

有田秀穂(ありた・ひでほ) 1948年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床に、筑波大学基礎医学系で脳神経の基礎研究に従事し、ニューヨーク州立大学に留学。現在、東邦大学医学部統合生理学 教授。セロトニン研究の第一人者。近年は「うつになる人、キレる人」の心身に健康を取り戻す「セロトニングトレーニング」を考案する。著書『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)が好評発売中だ。

 この神経の持つ働きは5つ。第1に「睡眠から覚醒へのシフトを行う」。睡眠時はほとんど活動しないが、覚醒とともに活発に働き始める。働きが不十分だと、目が覚めても頭がすっきりしない状態になる。

 第2は「心の不安や緊張を取る」。通常、覚醒時は、脳波はベータ波が優位になるが、セロトニン神経が活発に働くとアルファー2という特別な脳波が出現する。癒やしやリラックスの働きをする脳波で、有田教授が「クールな覚醒」と呼ぶものだ。緊張や不安が取れ混乱も静まるので、ネガティブ思考が減少し、元気になる。

 第3は「自律神経を適度なレベルに保つ」。覚醒時には交感神経が、睡眠時には副交感神経が優位になるが、それらが低レベルであれば上げ、過活動なら下げ、適度なレベルに保つ。

 第4は「痛みの制御」。痛みに対して過剰反応しないように調整する働きを持つ。これが正常に働かないと「線維筋痛症」を発症。痛みを生み出す外的要因はほとんどないにもかかわらず体の各部に激しい痛みを感じ苦しむ病気だが、セロトニン神経の働きを活性化する治療薬で改善する。

 第5は「正しい姿勢を保つ」。朝起きてセロトニン神経が動き出すと全身の抗重力筋が活性化し、姿勢がシャンとし、瞼もパッチリで引き締まった顔の表情になる。