(田丸 昇:棋士)
スポーツ関連で使用される将棋の専門的な用語
新聞、テレビ、雑誌などのメディアが報じる記事には、将棋の専門的な用語が使われることがある。特にスポーツ関連の記事でよく見かける。
プロ野球の日本シリーズの試合が11月に行われる。7戦勝負で一方のチームが先に3勝すると、日本一に「王手をかける」とたいがい表現する。相手のチームも3勝して追いつくと、「逆王手をかける」ともいう。
将棋で「王手」とは、自軍の駒で相手の玉を取りにいく手で、玉を捕まえたら「詰み」となって勝利する。そんな状況は、あと1勝で優勝というイメージにつながる。
専門的に解釈すると、次に詰みを狙う意味の「詰めろをかける」が正しいと思う。ただ一般の人には、「詰めろ」よりも「王手」のほうが理解しやすい。また、3勝3敗の互角に持ち込む逆王手は、本来の意味とは少し異なるが、雰囲気は伝わってくる。
試合でリードしながら逆転負けを喫した場合、監督は「詰めが甘かった」などと反省の弁を述べる。野球でも将棋でも、最後の仕上げ(詰め)が大事なのは同じだ。
将棋の戦いで相手から取った駒は「持ち駒」で、いつでも盤上に打って使える。
野球でもピンチヒッターやリリーフ投手が揃っていることを「持ち駒が豊富」という。
会社などで思い通りに使える部下のことを「手駒がある」という。
政治や社会で使用される将棋用語
政治の世界でも、将棋用語が使われている。
日本と他国の外交問題が緊張すると、重大な「局面」になったという。与野党の折衝が行き詰まると、「手詰まり」になったという。首相が重要な決断をすることを「次の一手」という。
将棋で、いちど指した手を元に戻したり変えることを、「待った」といって反則行為に当たる。
相撲の立ち合いで両力士の間が合わないと、一方(または両者)が「待った」をして、改めて仕切り直しをする。相撲では反則にならない。
将棋で有利に戦うために、わざと駒を捨てることを「捨て駒」という。
それと同じ意味で、「会社を再建させるために、社員をリストラで捨て駒にする」ということは現実にある。囲碁用語の「捨て石」に言い換えることもある。
将棋で足軽のような下級の駒の「歩」が敵陣に入り込むと、金と同じ働きの「と金」に出世する。本来は大きな戦果である。ただ同じ意味の「成金」は、見下げた表現として使われる。
不動産を売ってぼろ儲けした人を「土地成金」という。急に金持ちになり、ぜいたくに暮らすことを「成金趣味」ともいう。
他人に対して高圧的な態度を取ることを「高飛車に出る」という。
「飛車」は将棋の駒の中で最も威力がある。前記の言葉には、仁王立ちして威嚇する様子を連想させる。しかし、飛車は盤上で前方に出ていくよりも、後方でにらみを利かしているものだ。それに高飛車という名称の指し方はない。