9月28日には、北朝鮮は極超音速ミサイルの発射実験を敢行した(写真:AP/アフロ)

 9月13日の月曜日未明、韓国のメディアは一斉に、北朝鮮が1500キロ級巡航ミサイル試験に成功したと報じた。その上で、「しかし、金正恩はミサイル試験の現場に出席しなかった模様」とも伝えた。

 米国のトマホーク巡航ミサイルとも張り合える1500キロ級巡航ミサイルの開発に成功したのであれば、北朝鮮として大いに誇るべき状況である。それなのに、目立ちたがり屋の金正恩総書記が発射に立ち会わなかった理由は何だろうか。

 北朝鮮において、金正恩総書記の立ち会いの有無は単なる偶然であるはずがない。そこには明白な理由が存在している。北朝鮮内部の消息筋からの情報も合わせて、分析すると、次の4つのポイントが浮かび上がる。

◎金興光氏の過去の記事はこちら(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%87%91+%E8%88%88%E5%85%89)をご覧ください。

(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

ミサイル試射を敢行した4つのポイント

 一つ目は、金正恩も今回のミサイルに戦略的な意味がないことを自覚している、ということだ。ご存知のように、金正恩はこの10年間、皆が忘れた頃になると必ずミサイルの試験発射を行った。それにより米国や国際社会を威嚇し、核保有国としての認定や経済制裁の解除といった要求を実現させようとしてきた。

 これまで北朝鮮は様々な種類のミサイルを開発してきたが、米国や国連が真に深刻な脅威とみなしているのは大陸間弾道ミサイルのみだ。

 北朝鮮の火星-14、火星-15ミサイルは射程距離が1万キロを優に超える長距離ミサイルで、米国本土を射程距離に収める。そのため米国は北朝鮮がこれらのミサイルを発射した際、激しく反発した。一方、北朝鮮は長距離ミサイルの他にも、北朝鮮版のイスカンデルミサイル(地上発射型のミサイルシステム)やATACMSミサイル(地対空ミサイル)などの戦術ミサイルを開発、改良してきた。

 特に、今回発射された巡航ミサイルはこれまでに4回の発射実験を行っており、北朝鮮の表現を借りれば「中核的な研究開発の対象」だという。しかし、長距離ミサイル以外の戦術ミサイルは、いずれにせよ米本土の直接的な脅威にならないため、米国はもちろん国連や北大西洋条約機構(NATO)もほぼ黙殺している。

 そうした状況で、戦術ミサイルの試験発射ごときに、金正恩総書記が立ち会って国営メディアで壮言大語しても笑いものにされるのがオチだ。とはいえ、核実験や長距離ミサイル試験を再開すれば、国際社会との関係でさらなる軋轢を生むことになる。北朝鮮としては、実際の行動は戦術ミサイルの試験発射や軍事パレードにとどめつつ、国営メディアを使ったアピールで、最大限バイデン大統領の関心を引きつけようとしたのだろう。

巡航ミサイルに加えて、弾道ミサイルや超音速ミサイルの実験に踏み切るなど、金正恩総書記はミサイル攻撃の多様化を進める(提供:KCNA/UPI/アフロ)