玉虫色の北朝鮮政策を掲げるバイデン大統領(写真:AP/アフロ)

 バイデン大統領が就任してから8カ月以上が経過した。だが、米朝間で接触や交渉があったとの話は全く聞こえてこない。この状況について、識者の見方には大きく分けて次の三つがある。

 まず、意味のある展開を期待するには早すぎるという見方。次に、特段の外交カードが存在しない状況では北朝鮮の出方を待つのが得策だという見方。そして、最後に世界的なコロナ渦の状況にあって急ぐだけの理由がないという見方だ。

 だが、北朝鮮の非核化や米朝関係の改善が暗礁に乗り上げている現在の状況を、こうした弁明でやり過ごすのは良くない。米韓は北朝鮮を揺さぶるために何をすればいいのか──。北朝鮮の幹部養成機関で教鞭を執った、脱北者の金興光氏が分析する。

(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

焦点が定まらないバイデン政権の北朝鮮政策

 そもそもバイデン政権は、北朝鮮政策にどのようなビジョンを持っているのだろうか。就任後100日たった時点でバイデン政権が発表した北朝鮮政策を見ると、トランプとオバマという二人の前任者の立場とは異なる印象ながら、どのように北朝鮮の核問題を解決し、また北朝鮮の態度を変化させようとしているのかという、目標達成のためのアプローチがぼやけて映る。

 ちなみに、バイデン政権の北朝鮮政策の柱は、「朝鮮半島の完全な非核化を目指して、実用的なアプローチを通じ、外交的に解決していくこと」だという。筆者には大変曖昧に聞こえるが、米国の専門家の解説によれば、トランプ流のビッグディールとオバマ流の「戦略的忍耐」のどちらとも違い、実用的なアプローチを模索していくという趣旨という話だ。

北朝鮮が爆破した豊渓里の核実験場。米国を交渉の場に引きずり出すために、再度の核・ミサイル実験も囁かれている(提供:AP/アフロ)