2020年の柔道グランドスラム・デュッセルドルフ大会の時のアン選手。決勝で大野将平選手に負けたが、銀メダルを獲得した(写真:Christian Fidler/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 東京五輪が幕を閉じた現在、韓国ではオリンピックで活躍したメダリストにスポット当てた番組が増えている。その中でも一番人気は女子バレーの金軟景(キム・ヨンギョン)選手だが、男子アーチェリーチームやフェンシングチーム、柔道などの選手もテレビへの出演頻度が高い。

 先日、コメディアンのユ・ジェソクが司会者を務める韓国ケーブルテレビTvNの「ユ・キッズ」に、男子柔道73kg級で銅メダルに輝いた在日韓国人の安昌林(アン・チャンリム)選手が出演し、韓国代表の座につくまでの苦労やオリンピックでの秘話を語った。

 その中で注目を集めたのは、彼自身が「在日韓国人」として抱えていた葛藤と、日本と韓国で受けた差別の経験についてだ。8月18日に放送された番組の中で、アン選手は日本と韓国の両国で体験したことを赤裸々に告白した。

 アン選手は番組の中で、日本在住時に「朝鮮人」という言葉を浴びせられることが多かったこと、アン選手の弟も学校で在日韓国人という理由から罵声を浴びせられたこと、近年の嫌韓ムードの高まりの中、右翼団体などによる在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチや集会が盛んになりつつあることなどが紹介されていた。

 また、こういった差別は日本にとどまらず、韓国に来てからも韓国人から侮辱的な言葉を吐かれたり、陰口を叩かれれたりしたことを振り返りながら、「より強く自分が在日韓国人であることを感じた」と述べている。

 アン選手によると、こうした苦境や、祖父母が日本に帰化することなく在日韓国人として生きることを選択したことが韓国代表としてオリンピックに出場するというモチベーションになり、それが「絶対に偏見を持たずに生きていく」という決意に繋がったという。

 確かに、アン選手の経歴や話を聞けば、一国の代表としてオリンピックに出場することが並大抵ではなく、しかも在日韓国人という国籍に伴う心理的な葛藤があったことは容易に想像できる。

 その反面、(アン選手の発言に対してでなく、番組そのものの作りについて)どうしても日本での差別や嫌韓、ヘイトスピーチといったところが強調、クローズアップがされていた印象があり、その内容にモヤモヤした感情も残ったことは否めない。