駐大阪総領事の最重要任務は「対日言論戦」の遂行か
この一連の経緯については、筆者が独自情報として今年4月、デイリー新潮に寄稿したが、その後の取材で、何氏が1994年ごろには得意の日本語を活かし、NHK北京支局に“派遣”され、「NHK北京支局長秘書」の肩書きで日中の報道現場でも活躍。NHKによる江沢民単独インタビューのお膳立てに奔走したという異色の経歴の持ち主であることも判明した。同時に、何氏の“失脚”の理由に関して「日本での金銭絡みのスキャンダル」を指摘する声もあることも分かった。
総領事館からも公式な発表がなく、具体的な原因は現時点では不明だが、本国から総領事館にも詳細な説明がないままに結果的に昨年12月で任期が終わったことにされた経緯もあり、いずれにせよ“粛清人事”だったとみられる。
約半年の空白期間をおいて後任となった薛氏の着任からおよそ1カ月後、駐米中国大使において、穏健派とされてきた崔天凱(さいてんがい)氏(68)から、前外務次官で対外姿勢が強硬とされる若手の秦剛(しんごう)氏(55)に交代し、国際的に注目された。薛氏の言動をみれば、いずれの人事も習近平指導部の「戦狼外交」を象徴するといえそうだ。
今回のアフガニスタンにおけるタリバンの政権掌握、ガニ大統領の国外脱出に先立つ7月28日、王毅国務委員兼外相は、天津でタリバン幹部と会談しているが、その直後にアフガニスタン情勢が急変したという経緯は、ミャンマー情勢とも類似している。米軍の後ろ盾を失ったアフガニスタン政府崩壊という今回の流れを受け、中国では台湾に対し、対米関係再考を促す論調も出てきている。
その台湾では、地元有力紙が「バイデン米大統領は軽率に友人を捨てた」と題する社説を掲げるなどで動揺が広がったが、蘇貞昌行政院長(首相に相当)が「強国が武力で台湾を併呑しようとしても、われわれは死を恐れることなくこの国を守る」として「自力防衛の信念」を強調し、台湾社会に団結を呼びかけるなど、中国をけん制した。
同じように中国は、日米安全保障条約で米国と同盟関係にある日本に対しても、戦略的に離間工作として世論を揺さぶってくることは想像に難くない。薛氏のSNS発信を見る限り、彼こそが対日「言論戦」の最前線に立つことを任務として与えられたかのような印象だ。