話をユキさんの送金に戻そう。彼女は、“逃亡者”なので、日本の銀行を使うのはリスクが高いのではないのか。
再びユキさんに尋ねてみた。
「別ノ銀行。新宿ニアル銀行デス。今ノ社長サンガ紹介シテクレマシタ」
今の社長とは、ユキさんが働く「チャイナエステ」を経営するリュウと名乗る在日中国人男性だ。キャッシュカードを持っていることも驚きだったが、ベトナムでへの送金はそれとは別の銀行を利用しているのだという。
彼女への取材に同席していたリュウさんに銀行名を問うと、
「日本の金融当局には認められていない、いわゆる“地下銀行”です」
と苦笑しながら流暢な日本語で答えた。「地下銀行」の響きにがぜん興味がわいてきた。
「地下銀行の責任者を紹介してもいいですが、一人で行くのはチョット危ないかもしれません。私も一緒ならば・・・」(リュウさん)
思いのほか、当りが柔らかだった地下銀行主宰者
数日後、リュウさんに“ガードマン”になってもらって一緒に訪れたのは、新宿区内にある雑居ビルの一室だった。むろん、ビルの外に地下銀行の看板はなく、ビル内にある部屋の入り口には日本語学校と思しき看板がある。どうやらワンフロアを“学校”が借りているようだった。が、不思議なことにその日は生徒の姿を一人も見かけることはなかった。
