1989年の「ベルリンの壁」崩壊から20年が経つ。米ソ冷戦が終結を告げ、米国が一極集中的にリードする形で東西世界が1つになり、あらゆる分野でグローバル化が進んだ。社会主義体制が崩壊し、資本主義体制が独走を始めると、自由貿易や市場主義を原則とする「新自由主義政策」が台頭。世界大競争の中に、開発途上国も参入を迫られた。
ところが、今や一大転換期を迎えた。
ウォール街発の金融危機が世界経済全体を揺さぶり、米国の「信用力」が大きく低下した。過度な新自由主義は修正され、国家による市場への介入が容認され始めた。米国一極集中の覇権体制はもちろん、米英中心のG8も機能不全に陥りつつあり、一握りの先進国が世界経済を運営するシステムは転換を余儀なくされた。
昨年11月15日のG20金融サミットに象徴されるように、政治・経済両面で指導力に陰りが見える米国、欧州連合(EU)に対し、ロシアや中国、インド、ブラジルなど新興国がそれぞれ利害をぶつけ合い、国際関係は多極化の時代を迎えた。
こうした変化は、インターネットの世界にも反映するのであろうか。
陰り始めたネット上の米国覇権
もともとインターネットは、米国の安全保障上の要求から誕生。ソ連からの核攻撃に対して、米軍内部の情報システムを守るための、分散型ネットワークの研究がその基礎となった。当初、米政府は軍事目的で資金提供し、開発を推進した。しかしソ連崩壊後、軍事的意義が薄れ、むしろ経済的利用の動機が強まり、1995年にインターネット接続の完全商用化が実現した。
これを契機に、情報通信技術(ICT)関連のベンチャービジネスが隆盛を極め、1990年代以降は米国の経済的繁栄に大きく貢献。インターネットのガバナンス面でも98年以来、米国が事実上の覇権を掌握し、ドメイン名とアドレスの管理は非営利組織ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)に委ねられている。カリフォルニア州の法律に基づいて設立された民間団体の体裁を取り、公式には米商務省は管轄外と主張している。
そのうえ、インターネットの「電話帳」と呼ばれるDNS(Domain Name System)のルートサーバーレコードの管理権は依然、商務省が握っている。ネットの大動脈であるルートサーバーは、全世界13台のうち10台が米政府の監督下で運営される。
いわゆるIT産業では、IBMからウインテル(ウィンドウズ開発のマイクロソフトとMPU製造のインテルが連合)、そしてグーグル、アマゾンといった米国企業が主導してきた。「世界標準」を確立した企業の大半が米国勢。グローバル経済で圧倒的に優位な地位を占め、地球規模のサプライチェーンで寡占利益を上げるシステムを構築している。
こうしてネット世界の米国覇権は、国際社会のそれより強固な一極支配体制となった。