久保建英と堂安律(写真:AP/アフロ)

 サッカー日本代表の東京五輪の試合を振り返るたび、何度も脳裏に甦ってくる「会話」がある。

 日本対スペインの準決勝を放送した、スペイン国営放送TVEの実況と解説のやりとりだ。森保一監督は延長戦前、久保建英と堂安律を同時に下げる決断をした。この交代を知ったスペインの実況と解説の間でかわされた会話だ。

明らかに「助かった」のニュアンス

 ちなみに解説は元バルセロナの右サイドバック、フェレール。彼自身は1992年のバルセロナ五輪サッカーで金メダルを獲得している。信じられないというような声で、彼らはこんな話をしていた。

「日本の交代は・・・久保と堂安です」

「久保と堂安ですか」

「日本にとって決定的な選手たちです。それを代えるというのは・・・」

「驚きですね。久保と堂安は差を生み出すことのできる選手ですから」

「より動ける選手を入れる、とのことなのかもしれませんが」

「まあ、交代で入る元気な選手が機能するかもしれないですし、ここはあまり言わないでおきましょう」

 細かい部分は省くが、内容としてはこのようなやりとりだった。実況席の笑みまで伝わってくる、「我々にとっては助かる交代だ」といわんばかりの会話である。元々スペインでは、日本は「久保と堂安のチーム」とされていた。延長戦、1点を争う究極の場面でキープレイヤーを同時に下げるという決断は彼らには不可解だったのだろう。そしておそらくは、ピッチ上のスペイン人選手も同じことを感じていたはずだ。回数は少なかったものの、久保はスペインをヒヤリとさせるシュートを放つなど、複数の決定機に絡んでいる。

 スペインが勝ち、日本が負けたのはこの交代があったからではない。日々チームと接し、選手のことを最も近くから見ている監督でなければ分かり得ないこともあるだろう。しかし個の力で局面を打開できる選手をあっさりと下げたのはスペインにとってはプラスだったと、少なくとも対戦国側はとらえている。