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COVAXシステムを通じて提供され、コソボの空港に到着したアストラゼネカワクチン(写真:AP/アフロ)

(文:池畑修平)

誕生から1年あまり。「持てる者も持たざる者も、平等に」という理念のもと、WHOや各国首脳、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」など幅広い支持を集めた枠組みは早くも機能不全を見せている。COVAXがアピールした「薄利多売」という製薬会社にとってのメリットは、資金力にモノを言わせた先進国のワクチン・ナショナリズムに対抗できない。

先進国にとっては“リスクヘッジ”

 新型コロナウイルスのワクチンに関連したニュースで、COVAX、あるいはCOVAXファシリティという名称の供給の枠組みを目にすることは多いであろうが、その独特のメカニズムに関する説明は少ないように思える。ポイントは、「持てる者も持たざる者も、平等に」という考え方だ。

 COVAXに参加する国や地域には、2種類ある。ひとつは、自ら資金を出して自らのためにワクチンを購入する国など。この文章では便宜的に「先進国」と呼ぶ。もうひとつは資金を出さずにワクチンの供給を受ける国・地域、「途上国」だ。先進国も途上国も、ともに人口の20%のワクチンを受け取れるというのが原則だ。

 では、資金を出す先進国側にとってのメリットは?

 まずはリスクヘッジ。ある先進国がワクチンを開発している製薬会社と個別に購入交渉をしても、その製薬会社の開発が失敗すれば、ワクチンは手に入らない。これに対し、COVAXは複数の製薬会社(発足当初は9社)から購入するので、何社か開発に失敗したとしても、成功した社から人口の20%分は受け取れる。複数の株式を組み合わせる投資信託をイメージしてもらえば分かりやすいかもしれない。

 それに、間接的に途上国側のワクチン確保を支援するのだから、国際貢献として胸も張れるというものだ。

 このように、ワクチンをめぐるいわば投資信託で「持てる者も持たざる者も、平等に」供給・接種が進めば、国境など一顧だにしないウイルスとの闘いで人類は優位に立てるはずであった。

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