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中国製の新型コロナ感染症ワクチン(写真:Featurechina/アフロ)

(文:鈴木一人)

 昨年1月に日本で最初の感染者が報告され、それ以降、拡大し続ける新型コロナウイルス感染症。全世界では1億人以上が感染し、230万人以上が亡くなっている。

 なかでも先進国ではアメリカやイギリスなど、感染症研究の先端と言われた国々で多数の死者(アメリカ46万人以上、イギリス11万人以上)を出しており、感染が拡大するたびにロックダウンなどの厳しい措置を取らざるを得ない状態になっている。

 そんな中で、希望の光となっているのがワクチンである。これまでの開発法ではなく、ウイルスのmRNA遺伝子を改編するという手法を使って、通常なら数年から十数年かかるようなワクチン開発を1年かからずに成し遂げた。

 しかもその有効性が90%を超える高いものであり、感染する可能性についても相当程度低くなれば、これまでのような強度の高い、ロックダウンのような措置を取らなくても、新規感染者数を低下させ、実効再生産数(1人の人が何人に感染させるか)を1以下に減らすことができるようになるため、感染の収束を一気に早めることが期待されている。

 世界中に感染が広がるパンデミックであることは、世界中がワクチンを求めることを意味する。しかし、ワクチンは民間企業が多額の投資を行って開発し、大幅な生産能力の増強にも費用をかけている。そのため、希少性の高いワクチンを獲得する競争が起こるのは市場経済の不可避的な作用であり、その結果として一部の国にワクチンの配布が偏ることになってしまう。

 ところが、一部の国でワクチンが接種され、感染が収まったとしても、他の国で感染が拡大してウイルスが変異すれば、ワクチンの効かないウイルスとなって、再度変異株が輸入され、感染がぶり返す可能性ももちろんある。ゆえに、ワクチン接種が1国で完了しても、それは感染が完全に収束したことを意味しない。

公平な分配を目指すCOVAXという枠組み

 こうしたワクチンを国際的に公平に分配するため、ワクチンと予防接種を推進する官民協力枠組みであるGAVIアライアンスや、世界保健機関(WHO)などが共同で新型コロナワクチン分配のために立ち上げたのが、「COVAXファシリティ」と呼ばれる枠組みである。これは先進国などの豊かな国が資金を提供し、ワクチンを共同購入して、貧しい国々に分配するというものである。2020年12月時点で190カ国が参加しており、ファイザー社やアストラゼネカ社(インドの会社がライセンスを受けて生産するものを含む)のワクチンを共同購入することになっている。

 2月3日時点では、COVAXに提供されたワクチンは合わせて3億3720万回分であり、これを2021年の第1四半期に各国に分配する予定である(詳細はこちらの表を参照)。

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