北朝鮮大使館。写真はモスクワの大使館(写真:TASS/アフロ)

 2005年に韓国映画「甘い人生」が公開された(ウィキペディア)。裏社会で強大な権力を持つボスの信頼と寵愛を受けていた主人公が、そのボスを裏切って破滅に至るというストーリーだ。

 数年前、北朝鮮で似たような事件が起きた。権力者と金持ちが自尊心をかけて争った事件である。どういう事件で、どういう結末を迎えたのだろうか。北朝鮮の裏側を描く「北朝鮮25時」。今回は、ある在外公館で起きた権力闘争とその顛末について。過去分は以下をご覧ください。

◎「北朝鮮25時」(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 東南アジアの、ある小さな島国にある北朝鮮大使館には、派遣された8家族が常駐している。

 通常、海外に派遣される北朝鮮大使館員の任期は3年で、時に一度延長されて6年となる例はある。ただ、北朝鮮対外経済委員会から派遣された貿易代表のヒョン・イルス氏(仮名)は10年以上駐在している。カネ儲けに長けたヒョン氏に代わる後任者がいないため、長くなったのだろう。

 ヒョン氏は北朝鮮で国際貿易を手がける企業で、毎年巨額の金を稼いでおり、大使館の維持費用はもちろん、大使館員の子女の学費まで提供している。それゆえに、大使や党書記すらヒョン氏を無下にはできず、むしろ彼の心象を良くし、一銭でも多くもらおうと考えているようだ。

 北朝鮮の場合、大使の月給は500ドルで、末端職である運転手は120ドルに過ぎない。だが、ヒョン氏の稼ぎは月に数十万ドルとケタが違った。大使館内の官舎で生活する職員に対して、ヒョン氏は現地の富豪が居住する地域にある200坪以上の高級家屋で暮らしていたほどだ。

 ところが、プール付きの豪華な一戸建で暮らすヒョン氏に危機が迫った。安全代表が新たに赴任してきたのだ。