室内の写真は撮影できず…

 公共建築なのに公共性が全くないビルディングタイプ──。まさにその通りで、20年池袋で暮らしている私もこれまで中に入る機会が一度もなかった。今回、この記事を書くために、職員にお願いして中を見せてもらった。けれども、「写真は絶対ダメ」ということでお見せできない。税務の施設ということでセキュリティーが厳しいのは分からなくはない。でも窓際くらいなら撮ってもいいのではと交渉したが駄目だった。おそらく、この建築がどの建築雑誌に載っていないのも同じ理由だろう。

 写真は撮らせてもらえなかったのだが、執務フロアに入って分かったことは、外観の特徴の一つである丸い穴は、執務室側からはほとんど見えない、ということ。壁の外側に壁を立てて、穴を空けているようだ。なぜ、わざわざと思うが、先の講演録にヒントがあった。

 もう一つ厄介なことに、税務署のような公共機関は午後五時に終わってしまいますが、この街は五時以降が大切な街であることです。そういう街に対して公共性をもった建築─公共性はないのですが─公共が建てた建築物がどのような貢献をすべきかと、ここでは塔をライトアップすることを主張して実現しました。(大江匡氏)

 おそらく丸窓は夜景を印象的に見せるためのものなのではないか。だが、私は塔や丸穴が光で浮かび上がる姿を見た記憶がない。いつからか、ライトアップはもったいない、ということになったのもしれない。見たいなあ…。

近くの「分室」も大江氏の設計

 そして、これもどの建築雑誌にも載っていないが、池袋西口にはもう一つ、大江氏が設計した公共建築がある。東京都豊島合同庁舎から西に50mほど、丸井の裏に立つ東京都豊島合同庁舎分室だ。この曲面の外壁、合同庁舎(分室でない方)の壁から飛び出た部分と似ている。「兄弟」あるいは「親子」を表現したのだろうか…。

 これも、入ってみたくなる外観。だが、部外者は入れない。入り口がどこかすら分からない、なんとも不思議な建築だ。大江氏が2000年代以降、ほぼ公共建築を手掛けていないのも、これらのやりとりに思うところがあったのかもしれない。