新型コロナウイルス感染症患者の重症化を抑える画期的な薬が開発できるかもしれない

 今回は、新型コロナウイルス感染症「重症化」に対して、きわめて顕著な効果を発揮した「治療薬」事例のペーパーをご紹介しましょう。

 本稿を執筆しているのは6月18日ですが、アメリカ東部6月16日日付、日本時間では17日に公開されたばかりの「ニューイングランド医学ジャーナル」(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2101643)の「トファシチニブがコロナ肺炎患者に有効」というイスラエルのアルバート・アインシュタイン病院やブラジルのサンパウロ医科大学、ファイザーなどの研究者による共著論文です。

 ワクチンの開発で、感染者や死亡者の絶対数は減る希望が見えてきました。しかし、コロナには、一度運悪く「重症化」して呼吸困難などの症状が出た場合、非常に高率で亡くなってしまうという問題が残っています。

 コロナ・ウイルスを直接叩く薬はいくつか見つかっています。

 例えばエボラ・ウイルスに有効なレムデシビル(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%A0%E3%83%87%E3%82%B7%E3%83%93%E3%83%AB)はエボラやコロナのウイルスRNA再生産を混乱させる働きがあり、米国のドナルド・トランプ前大統領やルドルフ・ジュリアーニ・元ニューヨーク市長のコロナ治療にも使われたとされます。

 しかし抗ウイルス剤は重症の患者に投与しても、残念ながら症状の改善にほとんど役に立ちません。

 2020年10月にはWHO(世界保健機関)から「レムデシビルはコロナ患者の生存率と無関係」とするペーパーすら出(https://www.bbc.com/japanese/54581122)、製薬会社と論争になったりもしました。

 ということで、コロナの重症化には、軽症時と全く違うメカニズムが働いているのではないか、と考えられてきました。

 今回発表された論文で重症患者にも効果のある別の薬として、従来は関節リュウマチや潰瘍性大腸炎などに用いられてきたトファシチニブ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%B7%E3%83%81%E3%83%8B%E3%83%96)にスポットライトが当たったのです。

トファシチニブとは何か?

 トファシチニブなどと言われても、普通誰にも分からないでしょう。

 調べてみたとしても、「ファイザーの商品名はゼルヤンツ」「日本国内では武田薬品工業が販売」といった情報だけではよく分からない。

 ただ、日本国内でもすでに販売されている薬で、しかも薬価(https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/39/3999034F1020.html)を調べてみると 5mgで2559.9円と決して安くはないけれど、保険が適用されれば処方不可能な高価格ではないことも分かります。

 すでに日本で発売され、他の病気に処方されている薬剤が、新型コロナウイルス感染症、特に「肺炎」に関して、かなり劇的な効果を上げているという最新の研究結果を、その薬理にさかのぼって平易に考えてみたいと思います。

「トファシチニブ」をもう少し詳しく調べてみると「強力なヤーヌスキナーゼ」「阻害剤」などと、またしても門外漢にはよく分からない言葉が並びます。