2010年にオープンしたポンピドゥー・センター・メッツ (c)Didier Boy de la Tour

 フランス・パリにまた現代美術館が誕生した。ブルス・ドゥ・コメルス美術館。またと言うのは、パリには既に国立、市立、私立の現代美術館がいくつかある上、2014年にはルイ・ヴィトン財団現代美術館が開館したばかりだからだ。

 ルイ・ヴィトン財団現代美術館もブルス・ドゥ・コメルス美術館も巨大であるが、プライベートミュージアムであり、大量の税金が注がれているわけではないので、それらの建設に特に市民の反対はなかった。そして、ともにオープン時には、入館予約がなかなかとれないほどの人気を得ている。

 ルイ・ヴィトン財団現代美術館に至ってはしかし、 訪れてみるとその広さに対しコレクションが少なく、ガランとした空間が際立って、アート観賞というよりフランク・ゲーリー建築を見学に行くという趣であった。事実、外観はオープン時の一番の話題でもあった。

 なるほどパリのブローニュの森に、宇宙から人工的な巨大帆船が不時着したかのようで、緑の木々や大空とのコントラストが目の前に現れた時には圧倒された。が、ガラスの屋根は不時着時にずれてしまったかのごとく、何かの間違いのように重なり合い、見つめているとハーモニーある形に直したくなってうずうずする。

 手作りの模型を見ると、とても雑だった。しかし、有難いことに建てられているのは町中ではなかったので、人々はその外観に対して幸運にも疲れる議論を交わすことは避けられた。

 フランス人は、新しい建築物がどのように風景を変えるかにとても繊細だ。大きな建築物であればあるほど、それはその地域の表情を変え、街の顔にさえなる。だから新しい建築物には、その業界人のみならず、一般人からのなかなか手強い批判がつきものだ。

 彼らは愛する我が町を、誰かの“デザイン“で変えてもらいたくなんかない。新建築というものは、ほぼもれなく“時代を象徴する“または“未来型”で、中には奇抜さがセンスを超えているものもある。そんな新入りを彼らは、「斬新!」の一言で片付けないし、「世界に名だたる偉大な建築家による!」と謳われたものであっても簡単には拝まない。

 ギュスタブ・エッフェルのエッフェル塔然り、レンゾ・ピアノのポンピドゥー・センター然り、イオ・ミン・ペイのルーブルのガラスのピラミッド然り、ドミニク・ペローの国立大図書館然り。

 火災の後のノートルダム寺院も、再建築にあたっては、あっと驚くアイデアが様々に提案された。しかし最終的に昔のままの形で再建されることになった。人々はそれに安堵し喜んだ。全くフランス人が新建築を歓迎しない証明だ。