1.中国政府が犯した大きなミス
最近、欧米の中国専門家と意見交換をすると、ほとんどの専門家が「中国政府は大きなミスを犯した」と一致した見方を示す出来事がある。
EUが新疆ウイグル自治区の人権問題を批判して実施した対中制裁に対し、中国政府が報復措置として実施した対EU制裁のことである。
この中国による報復制裁の内容が、EUによる対中制裁に比べてあまりに厳しすぎたため、EU議会が強く反発した。
そして、2020年末にEU中国間で大筋合意に至った中欧投資協定(EU-China Comprehensive Agreement on Investment=EU中国包括的投資協定、以下CAI)について、EU議会での最終合意に向けた審議を停止する決定を下したのである。
EUが中国に対して提示した審議再開の条件は中国による上記制裁の解除である。
中国政府がこれを簡単に解除するとは考えにくいことから、審議停止は長引くとの見方が支配的だ。最悪の場合は再開されない可能性もあるとの見方も少なくない。
CAIの交渉はEU中国間で2014年にスタートして7年間続いていた。2020年12月初旬、EU関係者のほぼ全員が2020年末までにCAI交渉が大筋合意に達する可能性はまずないと見ていた。
その主な原因は、EUが中国に対して強く要求してきた相互主義(reciprocity)の条件を中国が一貫して拒否していたからである。
中国はまだ発展途上国であるため、先進国であるEUと同じ基準で市場の競争条件を整備するのはまだ無理だというのが拒否の理由だった。
ところが、12月中旬になって、中国側が突然譲歩し、EUの要求を呑むと回答した。
その背景は、第1に、米国のジョー・バイデン政権が1月に発足し、ドナルド・トランプ政権とほぼ同様の強硬な対中外交を展開すれば、米国がEUに対して圧力をかけ、EUとの交渉はさらに難しくなる可能性が高かったことがある。