ところがここに来て、その説に強い疑念が突き付けられている。
大手紙ウォール・ストリート・ジャーナル(2021年6月6日付)は、米国の2人の有力科学者ステーブン・クウェイ氏とリチャード・ミラー氏による「科学が武漢研究所からの流出を示している」と題する寄稿記事を掲載した。
両氏は、2020年2月に発表された米欧の6人の学者による共同研究論文をベースに、「研究所からの流出しか考えられないことを、科学が示している」と述べる。また、新型コロナウイルスの構造をみても、動物からの自然発生は考えられないと指摘していた。
ベースとなったのは、2020年2月に発表された、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に人工的操作の形跡があることを示す論文である。執筆者はB・コータード氏、C・バレ氏ら米国やフランスのウイルス関連分野の専門研究者6人だった。新型コロナウイルスが武漢で発生したことが世界に知られてから2カ月ほどの時期に、米国の国立衛生研究所(NIH)のサイトに掲載された。
その論文の趣旨は以下のとおりである。
・新型コロナウイルスが人間の細胞に侵入する際の突起物であるスパイクタンパク質は、中国で2002年から発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスのスパイクタンパク質と酷似しているが、一部に人工的な変更の跡がある。
・この人工的な変更は、既成のウイルスの感染力を高めるための「機能獲得」という作業だったとみられ、ゲノム編集の形跡があった。コロナウイルスに対するこの種の作業は研究所内でしか行えない。当時の武漢ウイルス研究所で同種の研究が行われていた記録がある。