「飲食の場が急所」というメッセージの弊害
「飲食の場が急所」「夜の街」「マスク会食」「旅行自体で感染起こらず」といった政府分科会や知事からのこれまでのメッセージが国民の行動に影響し、“マスクをしていれば外出・旅行も問題なし”と考える一定の層が存在すると考えられる。
その点も中曽根平和研究所のアンケート調査で確認した。その結果、「マスクをしていれば外出しても問題ない」と思っていない者、つまり「基本的に外出しない方がよい」と思っているのは半数を下回る(45.4%。年齢別では40.3~51.1%)。人混みについても「人が多くても話をしなければ問題ない」と思っていない者、つまり「基本的に人混みは避けるべき」と思っているのは半数を少し上回るにすぎない(53.9%。年齢別では46.5~58.7%)(図4)。

(備考)中曽根平和研究所「新型コロナウイルス感染症と経済社会の変化に関する意識調査」(2021年3月実施)より筆者が都道府県別人口構成比でウェイトバック集計
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政府も飲食店もデータに基づく政策検証を
飲食での感染リスクが高いことと、政策効果として感染拡大を反転させることができるかは別である。結局、急所とは、実際に感染が起こっている感染源の特定とその回避しかない。筆者は大学でデータサイエンスを教えており、データを活用するには分析、解釈、提言をセットで行う必要がある。もしそれでも「飲食が急所」との反証があるのであれば、感染者データを独占する政府・自治体が感染者のうち、発症前14日間に飲食店に行っていた人の割合、そのうち感染対策が十分でない店や多くの客で混雑していた店に行っていた人の割合をデータで示して議論すべきであろう。
飲食店側も、補償の有無と時短・休業要請を受け入れるか否かの議論にとどめず、「時短と来店者数制限(キャパシティコントロール)のどちらが感染抑制に効果があるか」を検証したり、政府・自治体に対して、無症状感染者の顧客を探し出すPCR検査の拡充を求めたり、内閣官房のモニタリング調査参加希望を出して従業員に感染が広がっていない証拠を示すなど、議論を深める取り組みを進める方が建設的と考えられる。
人流抑制の分岐点であるゴールデンウィークが始まった。医療機関休診になる一方、初日の4月29日は2020年同月比で渋谷センター街3倍(202.0%増)、銀座駅2.4倍(141.5%増)、緊急事態宣言対象地外では東京ディズニーランド16.7倍(1569.8%増)、新千歳空港駅4倍(306.2%増)、福岡・天神駅3倍(215.7%増)、名古屋駅2.5倍(154.7%増)、那覇空港駅2倍(98.9%増)、近鉄奈良駅1.8倍(75.1%増)だったという(Agoop調べ)。引き続きデータに基づく政策検証が必要である。