(文:樋泉克夫)
家族を捨て武漢に向かう医師を描いた新作も。文革時代に洗脳・教育の柱となった京劇が、いままた浮かび上がらせる「正しい党史観」としての毛沢東思想。
毛沢東以来の歴代中国共産党政権は、国慶節など国を挙げての祝賀行事や記念行事、さらには国際会議などに際し、それに相応しい内容の京劇を公演し、内外に政治的メッセージを発信してきた。
この宣伝手法をより積極的に踏襲する習近平政権は、今年7月の共産党建党100周年に向けて、5000本を優に超える京劇演目の中から推奨作品を選び出した。
『中國京劇』(2020年12月号)によれば、中国政府(文化和旅游部)は2020年10月30日に新作、古典、小品のうちから各々100本を選び、「重点推奨作品」として発表した。その理由は、「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神を確実に貫徹し、中国共産党成立100周年祝賀舞台芸術創作工作をより高いレベルで推し進めるため」だという。
ということは、「重点推奨作品」は「習近平総書記の文芸工作に関する一連の重要講話の精神」に沿った内容を十分に持ち、共産党成立100周年を祝うに適切な作品ということになる。
そこから、習近平国家主席が思い描いている「成立101年以降」の理想の共産党像が浮かび上がってくるに違いない。
一貫するテーマは「為人民服務」
選ばれた主な作品を見ると、『七個月零四天』は、チベット高原を横断する「青蔵公路」(1954年開通)の建設に当たった慕生忠将軍と旗下の2000余名の工兵部隊による7カ月と4日間の悪戦苦闘がテーマであり、共産党員の新中国建設への献身的で英雄的な姿を描き出す。
『文明太后』は、北方系遊牧民・鮮卑族の拓跋氏によって打ち立てられた北魏(386~534年)において、孝文帝とともに富国強兵と中国北部の安定と民族融和を図る一連の改革を推し進めた文明太后馮氏を主人公とする。彼女の治政が中国統一を促し、後の隋・唐と続く中華帝国における民族融合の礎となったと高く讃える。
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