日本郵政による「かんぽの宿」のオリックス不動産への一括譲渡が白紙に戻りました。
日本郵政は、「かんぽの宿」70施設と首都圏の社宅9カ所の計79施設を約109億円でオリックス不動産に一括譲渡する契約を結んでいました。ところが、この契約を解約することで合意したと、2月16日に正式に発表したのです。
この売却騒動において、当初、鳩山邦夫総務相は「入札の経緯が不透明」だとして精査を指示していたようです。しかし、譲渡契約の白紙撤回直前からは、「価格が安すぎる」という部分を強調した発言が多くなりました。
そして譲渡契約が撤回され、入札資料が提出された後の2月17日には、「客室稼働率が70%を超えているのに赤字になるのは普通は考えられない。まず黒字化の努力をすべきだ」と述べました。
鳩山邦夫大臣の発言を整理してみると、(1)「入札が不透明なので譲渡を認めない」、(2)「価格が安すぎるので入札過程を開示しろ」、(3)「黒字化の努力をしろ」ということになります。発言の趣旨が微妙にずれてきているのは気になりますが、理屈としては全くその通りなのでしょう。
すぐそこに迫ってきている病院の売却問題
さて、医療業界でも、かんぽの宿売却に匹敵するくらいの大きな整理・売却案件が進められていることをご存知でしょうか。
それは、社会保険庁管轄下にあり、来年9月に解散予定の時限的な行政法人「年金・健康保険福祉施設整理機構」が保有している全国計63カ所の「社会保険病院」と「厚生年金病院」の整理・売却です。
この整理・売却に、鳩山大臣の発言を当てはめてみましょう。かんぽの宿売却に向けた批判はやはり当てはまるでしょうか。
売却基準を透明に
まず「入札の経緯が不透明」という点から考えてみましょう。社会保険病院と厚生年金病院の売却では、入札が行われるわけではありません。ここで問題となるのは、売却先の対象や売却基準です。
売却先の対象は、確かに不透明感があります。社会保険庁によれば、「売却先は医療法人、地方自治体、公益性のある法人に限定」するそうです。ただし、「限定」と言っても、「公益性のある法人」となると、大部分の上場企業が対象になるでしょう。
また、「医療法人」ということになると、実際は医療法人でない病院はほとんどありません。極端な話、クリニックの多くも医療法人ですので、私のクリニックでもかまわないということになります。そういう意味で、売却の対象がはっきり絞られていないと思いました。
売却基準の透明化も求められます。公的機関から民間へ売却される際には、売却基準がはっきりしていないと後からいろいろな問題が起きてきます。例えば、買って大変な思いをして改革し、うまくいった際に、「癒着による出来レースで有利な条件で購入して、不当な利益を得た」という批判を受けることもあるのです。実際にJTが国際医療福祉大学へ売却した病院(国際医療福祉大学三田病院)では、そのような批判が起きました。
必死で頑張る人たちが後から文句を言われないように、不透明だという批判が出ないような売却基準を設けてほしいと思います。