「室町幕府」のイメージが変わる理由

房野 僕がそのあとの歴史を知っているからこそいえる結果論でしかないんですが、それじゃあうまくいくはずないよって、心のなかで何度も思っていました。それと関東のことを知るようになって、より一層室町幕府のことが気になりました。

乃至 どんなところが気になりましたか?

房野 日本史で幕府というと江戸幕府のイメージが強いですから、室町幕府も日本中をきちんと統一していたと思われがちだけど、決してそんなことはない。

乃至 幕府っていうとすべてが盤石で、大きな天守閣や主殿で、みんなが将軍に向かって平伏しているイメージが強いですもんね。

房野 そうなんですよ。でも、当時の関東の様子を見ていると、室町幕府の存在ってなんだったんだろうって。

乃至 関東の武将たちは幕府のいうことぜんぜん聞かず、自分の好き勝手に動いている感がありますよね。

房野 本当は幕府なんて存在していなかったんじゃないかってぐらいの勢いで、みんな思い思いにうごいめいていますから。日本の西と東で動きがまったく別々っていうのが、『謙信越山』を読んでいると実感できておもしろかったです。

乃至 これが江戸幕府の時代だったらそうはいきません。将軍がひと言「お前は改易だ」っていったら、いわれた側の大名はなにも抵抗せず、すぐに城を明け渡しますからね。

ただ、鎌倉幕府はもちろん室町幕府の時代までは、決してそうじゃなかったんです。

房野 そう考えると、本当に日本を統一できる幕府ができたのなんて近世に入ってからなんだなって。だから、あまり歴史に詳しくない人たちに室町幕府を説明するのは、あらためて難しいと思いました。

政府といえばそうなんだけど、思っている政府とは違って権力は盤石じゃないみたいなところで話が進まなくなってしまうような。

乃至 実際、足利尊氏から義昭まで、室町幕府の歴代将軍のほぼ全員が、自分で甲冑を着て、血に濡れた刀をふるっていた人ばかりですから。

房野 そう考えると、室町時代ってすごい時代ですね。

乃至 ファンタジー小説によくある「何とか戦記」の世界みたいな。私のなかでは足利将軍って『ロードス島戦記』のカシュー王【※4】とか、『英雄コナン』【※5】のような感じです。

※4 カシュー王 水野良のファンタジー小説『ロードス島戦記』などに登場する架空の人物。「砂漠の王国」フレイムの初代国王で"傭兵王"などの異名をもつ。

※5 『英雄コナン』 1932年からロバート・E・ハワード(一部作品はディ=キャンプ、ビョルン・ニューベリイらの補作)により著されたヒロイック・ファンタジーのシリーズであり、その主人公。

房野 ただ、盤石な存在ではないから争いが絶えないんですけど、だからといって武将たちも室町幕府のことをぞんざいにあつかっているわけではないっていうのが、非常にややこしいところですよね。

乃至 おっしゃるとおりです。

房野 その点でいうと、乃至先生の『謙信越山』は当時の関東の情勢だったり、武将たちの思惑だったりを丁寧に書いてくださっているので、とても勉強になりました。

乃至 ありがとうございます。私も房野さんと同じように、歴史が苦手だったり興味がなかったりする人に、少しでも歴史が好きになってもらえるような本をこれからも書いていきたいですね。(続く)

(取材・文/スノハラケンジ)

房野史典×乃至政彦対談(1)上杉謙信が「戦国武将で最も説明が難しい」理由
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64481

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https://jbpress.ismedia.jp/feature/kenshinetsuzan

『謙信越山』乃至政彦・著。謙信が繰り返した関東遠征の謎から見えた東国史。重版が決まるなど好評を博す