目まぐるしい変化に対応すべく「現地化」が加速

 昨年6月、ある日系大手企業のアメリカ現地法人社長と、オンラインで話をする機会がありました。日本で緊急事態宣言が出される中、アメリカではロックダウンが続いている状況で、事業運営ができないと話していました。そのため社長は、数千名いた従業員を解雇して、200名程度まで減らしました。しかし、この人員削減の稟議を通すために、日本の本社との調整が非常に難航したそうです。

 そもそも「解雇」という考え方が主流ではない日本企業にとっては、訴訟リスクを抑えるためにも「解雇は避けたい」という思惑が働くのです。また、日本の本社には現地の状況をリアルタイムで実感できないため、結果として事業継続が危ぶまれる危機的状況の中でも、こうした大胆な決断が遅れてしまうことがよくあります。

 現在、新型コロナウイルスの影響は国ごとに異なる状況です。いちいち日本の本社が判断していては、決断が間に合わないでしょう。そこで、2021年はさらなる現地化が進んでいくと考えられます。地域によっては、中国のように経済が急に回復する場合もあるはずです。そうした変化にすぐに対応するには、現地での素早い判断が欠かせません。

 また、そもそも渡航制限が続く中では、日本から人員補充ができません。企業によってはこの機会に、現地の幹部社員への権限委譲をさらに進め、将来の役員候補として育成する取り組みも出てくるのではないでしょうか。

世界中が「採用の主戦場」になる日

 今年2021年、世界的なテレワークの普及が完了した後に訪れるのが、「グローバル採用」です。リモートワーク環境さえ整っていれば、世界中の優秀な人材を、現地在住のまま採用できます。特に日本ではITや機械系を中心に、理系人材が不足しているため、優秀なエンジニアをインドや東南アジア、欧米から雇うことは今後の企業の成長戦略を左右するでしょう。日本では特に「高度な設計を担える人材」や「デジタルに強い人材」が不足しているため、いち早くこうした人材を獲得するために動いた日本企業が、アフターコロナの時代を生き抜くと考えられます。

 今は現地在住のまま採用を行い、将来的には新型コロナウイルスの影響が落ち着いた段階で日本へ研修に来てもらう、といった採用の方法が、今後主流になる可能性は大いにあり得ます。企業は優秀な人材を確保するために、LinkedInなどのビジネスSNSを活用するシーンがさらに増えるでしょう。まさに世界中が採用の主戦場になる日が、今年訪れるのではないでしょうか。

 2021年の人事領域は、これまでになかった変化が世界レベルで起こると考えられます。私も人事担当者として、日本だけではなく、視野を世界に広げて変化に対応していきたいと思います。

著者プロフィール

中野 在人

大手上場メーカーの現役人事担当者。

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。

個人で転職メディア「転キャリ」を運営中 http://careeruptenshoku.com/
他に不定期更新で人事系ブログも運営。http://hrgate.jp/