2020年は、地政学的リスクが高まった1年でもありました。その影響は今年2021年にも続いています。中国の香港問題からアメリカの政権交代、止まらない新型コロナウイルスの影響など、海外情勢は今後さらに先行きが見えない状況になりそうです。日本のグローバル企業でも、人員配置や重点市場の変更など、海外拠点での戦略の変更を余儀なくされています。そこで今回は、2021年のグローバル人事動向について考えてみます。
さらなる「環境変化」と「未来志向」への移行
大手人事コンサルティング会社のマーサー社が発表した「2020年 グローバル人材動向調査」によれば、2020年はテクノロジーと従業員の健康維持が重視された年でした。意外にもテクノロジーによる変革であるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、海外でも進んではおらず、マーサー社の調査によれば「5社のうち2社がデジタル化に成功した程度」だったそうです。一方で、経営者の従業員に対する関心事項のトップ3は「健康とウェルビーイングの支援」、「職場でのデジタル体験への期待」、「職場での自動化」でした。
同時に、「今後の不況への対応策」として採用したい戦略トップ3が、「戦略的パートナーシップの拡大」、「柔軟な人員配置モデルの活用」、「AIと自動化」です。経営者は先行きが不透明な経済環境に対して、従業員の健康を守りつつも、デジタル化を通じてなるべく人を抱え込まない組織づくりを考えているようです。
こうした世界的なトレンドの中、2021年は日本企業で3つのキーワードが重視されると考えられます。
・海外拠点のデジタル化
昨年の新型コロナウイルス対応で、大企業の日本本社ではIT投資が一服。今度は海外拠点とスムーズにコミュニケーションをとるための投資が進んでいくと考えられます。また、経済が停滞しているこの状況をチャンスとばかりに、体力のある企業では組織再編を進める可能性が高いでしょう。海外拠点を多く抱えるメーカーでは、人員削減を行って、工場の自動化や営業拠点のオンライン対応を進める企業も増えるはずです。
特に昨年からの海外渡航制限の状況で、日本企業では海外の顧客に対してオンラインで商談するノウハウがたまってきたと聞きます。わざわざ現地で増員をしなくとも、日本から営業支援を行うことも可能になりつつあります。グローバル企業では、「デジタル化や自動化」と「人員削減」に着手するのが今年2021年になるのではないでしょうか。
・SDGsとESG
先ほどご紹介したマーサー社の調査では、従業員のうち3人に1人が「すべてのステークホルダーに対する責任を表明している組織で働くこと」を好むと回答しています。機関投資家も、ESGの取り組みに積極的な企業へ投資する姿勢を打ち出してきています。こうした「企業へ社会的責任を求めるグローバルスタンダード」を背景に、海外ではSDGsとESGの取り組みが活発化すると考えられるでしょう。特に引き続き懸念が続く新型コロナウイルスの影響下では、従業員を大切にする姿勢や社会貢献の取り組みに高い注目が集まると考えられます。
・「エクスペリエンス」の加速
世界的な経済活動停滞により、大幅な賃上げが見込めない状況が続くと予想されます。こうした状況では賃金が高い企業だけではなく、福利厚生費を含めた総合的な企業の待遇の良さで従業員の会社選びが決まります。マーサー社の調査でも、従業員のうち2人に1人が「責任ある報酬を提供」し、「従業員の健康や資産を守る」組織で働くことを望んでいます。賃上げが難しいのであれば、従業員の「エクスペリエンス」を高め、職場環境や賃金以外の待遇を改善するべきです。今年は総合的な従業員満足度を上げられる企業が、従業員から選ばれることになるでしょう。