民主党のジョー・バイデン新大統領が1月20日の就任式で、「団結」や「結束」などインクルーシブな美辞麗句で飾られた演説を行い、「私に投票しなかった人たちも含めた、すべての米国民の大統領になる」「国民の結束に全身全霊を注ぐ」と宣言した。
だが、演説の内容はバイデン氏が当選した2020年11月から繰り返されてきた「民主党も共和党もない」という抽象的な団結や包摂というメッセージの豪華版に過ぎず、7400万の「私を支持しなかった有権者たち」の心に響くことも届くこともない。事実、バイデン氏が公明正大に当選した事実に納得しない勢力の一部は1月6日、今回の大統領就任式が挙行された米連邦議事堂に乱入する事件まで起こしている。
なぜバイデン新大統領の包摂の呼びかけは、人口のおよそ半数の米国人に受け入れられないのだろうか。彼らが真の大統領と仰ぐドナルド・トランプ前大統領自身が敗北を認めないこと、リベラルと保守の人々が互いに心を開いて話さないところまで分断がすでに進んでいること、彼らが信じる情報の多くが「フェイクニュース」とリベラル派にレッテルを貼られる陰謀論であり、その世界観や人間観からして民主党の包摂言説を信じられないこと、などが識者によって指摘されている。
しかし、より重要な理由として挙げられるのが、団結や包摂という言葉の美しさと、バイデン新大統領と民主党が推進する実際の分断的な政策の間に存在するギャップである。この記事では、就任演説に頻出したキーワードの分析を通して、バイデン新大統領が「本当に伝えたかったこと」を読み解く。
トランプ党を倒すのが「結束」「団結」
たとえば、バイデン新大統領は就任演説で、「私は、結束について話すことが、最近ではばかげた空想のように聞こえることを知っている。私は、私たちを分断する力が深く、現実のものであることを知っている」と認めた上で、「修復し、回復し、癒やし、構築し、獲得する」ことを任期中の課題として挙げた。さらに、「今、私たちは結束することができる」とも述べた。
では、具体的にはどうすれば、その結束や団結が達成されるのだろうか。バイデン新大統領は演説で、「対峙しなければならず、打ち負かすべき政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロがある」と明確にし、「私たちが直面する敵、怒り、恨みと憎しみ、過激主義、無法、暴力」という言葉を用いながら、「事実そのものが操作されたり、捏造されたりする文化を拒否しなければいけない」と言明した。
民主党、共和党、トランプ党、中道派、左派、極右などすべての聴衆にとり、バイデン氏の「打ち負かすべき敵」が誰を指していたのかは明々白々であった。それは、非リベラルであり、トランプ党であり、陰謀論者であり、ツイッターやフェイスブックにアカウント停止されるような人々である。つまり、民主党やリベラルエリートの政敵だ。
バイデン氏のメッセージに「結束」「団結」と、「打ち負かすべき敵との対峙」が矛盾する形で混在した理由は、自らの政敵であるトランプ党に対する戦いに国民を「参戦」させ、同じ敵を叩くことにより、彼が意図する「結束」と「団結」がもたらされることを説きたかったからである。
事実、バイデン新大統領は、「私の魂のすべては、米国をまとめること、国民を一つにまとめること、この国を結束させることにある。すべての国民に、この大義に参加してもらいたい」と志願を訴え、同時に、非リベラルやトランプ党を意味する「打ち負かすべき政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロ」「敵、怒り、恨みと憎しみ、過激主義、無法、暴力」の打倒を誓っている。