みなさん、明けましておめでとうございます。いつもInside HRをお読みいただきありがとうございます。

 2020年は本当に激動の1年でしたね。そして、その余波はまだまだ続きそうな状況です。本連載の直近2回では、「2020年の振り返り」と「2021年の予測」を行いました。いままさに人事界隈では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響に加えて、働き方やジョブ型雇用制度など、雇用環境の大きな変化が続いています。こうした変化は、私たち人事担当者にどのような影響を及ぼすのでしょうか。今回は、第44回の「概論編」(※)に続く「実践編」として、実務的視点から「2021年はどんなことに取り組むべきか」を考えてみたいと思います。

※ 2021年の人事はどうなる?:概論編~キーワードは「2極化」~【44】

新型コロナ対応に追われ、なかなか新しいことに着手できなかった2020年

 改めて、昨年は本当にお疲れ様でした。人事担当者のみなさんは、年末年始のお休みでようやくほっと一息つけたのではないでしょうか。

 2020年は終始新型コロナの対応に追われ、怒涛のように過ぎた1年だったことでしょう。「2019年末に武漢で新型コロナウイルスが発生した」というニュースを最初に聞いたときは、「中国の話か」と安心していましたが、あっという間に日本でも感染が拡大しました。気づけば、3月末には感染対策に走り回る日々。みなさんの中には、消毒液の手配や、社内の感染防止ルールの策定と周知に追われた方が、たくさんいらっしゃると思います。

 そして何とか感染拡大防止対応ができたかと思えば、緊急事態宣言を前にしてテレワークの準備が始まりました。企業によっては、そもそもPCの持ち出しルールが整備されていない、社外からアクセスできるインターネット回線を持ち合わせていない、といったケースも。平時であれば最低でも半年かけて準備する施策を、1ヵ月程度で間に合わせなければいけない状況となりました。

 人事担当者自身が「テレワーク」といった新しい働き方に慣れない中、あるいは感染を気にしながら出社する中で、落ち着かない日々を過ごしたのではないでしょうか。特に「社員にルールを周知する側」である人事部から、感染者が出るのは何としても避けたい。そんな緊張感に向き合った方も多いかもしれません。

 2020年は常に「感染対策との戦い」と「新しいルールの策定」の両立に追われ、「将来に向けた新しいこと」にはなかなか着手できない1年となったでしょう。

2021年の実務面で注意するべき4つのポイント

 今年は2020年の「後処理」をしながら、すっかり変わってしまった世界に対応するとともに、次の会社の成長に向けてチャレンジする年になりそうです。そこで、実務面で特に取り組むべきポイントを予測してみました。

・採用人数と採用する人材の判断
 リーマンショックがあった10年ほど前、企業の多くは採用を凍結しました。その結果、日本企業では中間層が不足するとともに、リーマンショック前後の世代の「先輩」や「後輩」が少なくなりました。その影響により、後輩指導経験の少ない管理職や、先輩社員から指導された経験が少ない社員が誕生しました。10年たった今、リーマンショックの影響は「企業の組織生産性低下」として問題となっています。

 2020年は、業界によっては採用人数を大きく絞り込んだことでしょう。同時に、会社の生き残りを賭けて希望退職を募り、派遣社員や契約社員の契約を泣く泣く更新できなかったという企業も多いと思います。その一方で、人を減らしながらも、不要な業務をきちんと削減した企業はどれだけあるのでしょうか。業務を削減せずに人を減らしてしまうと、仕事が回らなくなるのは当然のことです。結局、後から人を採用することもありえます。

 つまり、採用人数を絞り込みすぎると仕事が回らなくなるだけでなく、将来的には長期にわたって組織の生産性を低下させる可能性があるのです。そのため、多少苦しくても「将来への投資」だと考え、採用人数は十分な数を確保する必要があります。また、採用する人材も誰でもよいのではなく、このタイミングだからこそ、マルチタスクをこなせる人材を採用しましょう。人事部の判断が、この先、5年、10年の会社の成長を決めます。

・社員のITリテラシー向上とDX
 昨年は「テレワークを導入した企業」と「そうではない企業」が大きく分かれたのではないでしょうか。業種や業界によっては、そもそもテレワークが難しいという企業もあったと思います。

 しかし、このテレワーク導入の差は単に「働き方の差」だけではなく、「ITリテラシーの差」として2021年に大きく影響を及ぼすでしょう。テレワークを導入した企業では、どんどんITリテラシーが上がっていきます。しかしテレワークを導入していない企業では、この面で取り残されていくかもしれません。両者の開きが大きくなれば、「商習慣が合わない」といった現象が起こるはずです。商習慣が合わなければ、取引がなくなるリスクもあります。

 テレワークを導入しなかった企業でも、社員のITリテラシーを向上させるとともに、オンライン会議や電子契約など、社会環境に合わせて社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めましょう。

・副業ルールの策定と労使関係の見直し
 2021年は間違いなく、副業が盛り上がる年になります。政府も副業ルールを整備しているため、今年は「副業解禁本格化」の年になるかもしれません。副業ルールの策定は、早めに行っておくべきです。ひょっとすると「うちの社員はあまり副業しない」と思っているかもしれませんが、Uber Eatsをはじめ、今は様々な副業が簡単にできるようになっています。また、これからは副業から独立を考える人も増えるはずです。副業ルールを策定しなければ、独立や転職など、思わぬ形式で人材流出を招いてしまうでしょう。

 同時に、旧来の労使関係も見直す必要があります。もはや「会社が強い」時代は終わりました。副業や起業がより簡単になりつつある現代において、これからは個人が強い時代になります。従って、労働者の管理を担っていた、従来の労働組合の役割を大きく見直す必要があるでしょう。会社側も、労働組合と対立関係になるのではなく、「どうすれば社員が会社を選んでくれるのか」を考え、労働組合や従業員代表とともに会社づくりをするべきです。トヨタ自動車でも、労働組合が雇用制度の見直しに合意しました。まずは労使の対話を通じて、これからの会社や働き方の在り方がどうあるべきか、考えてみてはいかがでしょうか。

・組織の一体感づくり
 テレワークを導入した企業では、組織の一体感が大きな課題になります。そもそも働く場所が物理的な「場所」ではなく、バーチャルな「空間」や「場」になるため、社員同士の物理的な接触機会が少なくなっているはずです。顔を合わせる機会が少なくなると、どうしても会社としての一体感は薄れていきます。何をもって「会社」と呼ぶべきなのか、改めて定義することが求められるでしょう。

 一体感が薄れると、社員は「テレワークならどこの会社で働いてもいい」という考えになりがちです。これからは、オンラインでイベントを行う、面談制度を導入する、社長メッセージを定期的に流す、社内SNSを開設するなど、会社としての新しい「場」づくりを通じて一体感を強化していくべきでしょう。