社長だけど社員に隠れてエコノミークラスに

 私にも、外資社長を務めた一時期に少しだけ羽振りの良い時代があった。それでも社有車の出迎えを一度も利用しなかったのは、自分の欲の深さが怖かったからだ。

 毎朝変わらず、遠い駅まで自転車で出かけ、たまに贅沢をしてタクシーに乗るぐらいに抑えておけば、車を取り上げられたときに落ち込むこともあるまい。もし社有車に出迎えしてもらうなら、胸を張れる正しい稼ぎ方をして、退職してからも自分で契約できるぐらいの立場になってからだと思った。

 私が外資社長に就いたのは、リーマンショックが起きて2カ月後だった。社員たちが皆、腕利きで、いまから思っても面白い商品を作っていた。強い営業力で販売したおかげで、世界全体の逆境下に目覚ましい業績をあげた。

 しかし、残念なことに投資家にとって儲かる商品ばかりではなかった。一時的に元本割れする事態が数多く発生し、迷惑をかけたお客さまも出た。

 当時の私は立場的には、フライトはビジネスクラスが許されていた。同クラスはキャビンアテンダントが親切で機上でのサービスは極めて快適であることを知っていた。新幹線のグリーン席も同様だ。しかし喜んでいる顧客が少ない中で、特権をフルに使ってよいものか。お客様が儲かるか、世の中にないような新技術を創造して社会に貢献するか。成果が出るまで、エコノミーにしようと決めた。

 部下には「社長がエコノミーでは、夢がない」と言われたので、秘書に命じて隠れてエコノミーに乗っていた。単に自分が社長のポジションにいるからではなく、社長として胸をはることのできるビジネス貢献をしているかが必須要件であると信じていたからだ。