客はマスクを取ったまま「すみませ〜ん!」と大声で店員を呼ぶ。向かい合って声高に笑う。会話に熱中する。いままでだって感染しなかった。だったら、自己責任で飲食をする。あるいは、感染してもたいしたことはないだろう、という感覚。毎日発表される感染者数も、自分とは遠いところの出来事として受け入れられる。

 3月の東京都の外出自粛の要請や、4月の緊急事態宣言の時のような緊張感はもはやない。

「返報性の原理」と「社会的証明」

 第1波や第2波の時と比べて、感染者の数は段違いに増えているのに、なぜ世間の緊張感はさほど高まらないのだろうか。

 いわゆるカルト宗教に引き込まれるマインドコントロールの原理に、「返報性の原理」というものがある。

「返報性の原理」とは、人は良いことをされるとお礼をしたくなる心理のことをいう。

 例えば、大学の新入生が選択科目や新生活で先輩からいろいろ教えられる。その先輩から集会への参加を求められると断りづらい。行ってみるとカルトだったということはよくある。

 また社会心理学に、「社会的証明」という言葉がある。「社会的証明」とは、コンサート場に行こうと最寄り駅を降りたが、そこから先にどう進めばいいかわからない。案内版もない。だが、人の流れに付いていったら、目的の場所にたどり着けた、というように、まわりが真実を教えてくれる、というものだ。言い換えれば、「みんなそうだから、これは正しい」と思い込むことだ。