「逆求人」にひそむデメリット

「逆求人」には、一歩間違えればかえって手間とコストがかかる危険性もあるため注意が必要だ。

●企業側のデメリット

・本当に自社に合う人材に出会えるかは不透明
「逆求人」ではさまざまな人材と出会えるため「ダイバーシティ採用」を進める上でも役立つが、当然、出会った人材が必ずしも自社に合う人材とは限らない。離職を招く「採用後のミスマッチ」を防ぐためにも、採用担当者は、学生や求職者が発信する「自己PR」をしっかり見極め、慎重に採用活動を進める必要がある。

 採用活動のきっかけとして「逆求人」は有用である。ただ、手間や経費といったコストを低減できるとはいっても、採用までのステップはこれまで通りにきちんと注意を払わなければならない。アプローチのための声がけや面談だけでなく、その後の、採用面接をきちんと行い、対象者が本当に自社にマッチする人材かどうか、判断が必要となる。

・手間とコストがかかる場合も
 従来型の採用活動と比べて手間やコストがかからないとはいっても、「逆求人イベント」や「逆求人サイト」で情報発信をするためには、事前の準備が必要だ。また、逆求人の場で、自社に合う学生を選びアプローチした後は、自社に関する企業説明をしなければならない。つまり、まったく手間がかからないわけでなないのだ。

 せっかく自社の採用条件を満たす優秀な人材に出会っても、自社の魅力が十分に伝わらなければ自社を志望してもらえないため、余計に手間やコストもかかることを念頭に置いておくべきである。

●学生側にデメリットとなること

・自己アピールに苦手意識を持つと、アプローチが少ない場合も
 自己アピールに苦手意識を持っていると、表現が控えめになったり、自分の魅力を十分に伝えらなかったりして、結果的に企業からのオファーも少なくなってしまう傾向がある。自己アピールにまず必要なことは、自分が学生生活で経験したことや身につけた知識・スキルは何であるかをきちんと「自己の棚卸し」をして、しっかりと自己分析することだ。文章で上手に伝えられない場合も、伝えるべきことがきちんと整理できていたり、熱量を高く伝えたりすることができれば、採用担当者の印象に残るだろう。

「逆求人」は、情報を出す求職者、学生側にとっても、従来の就職活動より手間や時間が少なくて済む。だからこそ、集中した熟考が重要だ。また、突出することを嫌いがちな日本人には「アピール」すること自体に苦手意識を持っている人も多い。就職活動を、自分と向き合う分析の場であるととらえ、しっかりと自分が積んできた経験・実績を整理できれば、自信を持てるようにもなる。そうすれば苦手意識も克服できるだろう。

・自分の目指すものとは合わないオファーが来る場合もある
 必ずしも「アプローチしてきた企業=自分に合う企業」ではないので注意が必要だ。また、自分のやりたいことができる企業ではない場合もあるため、オファーを受けたからといって安易に飛びつくのではなく、自分なりにきちんと企業分析を行うことが重要だ。これまで興味のなかった業界からのアプローチであれば、企業だけでなく業界研究も必要になる。

 自分のプロフィールに魅力を感じてくれたことは嬉しく、密なコミュニケーションを取ると、その企業への関心が高まることもある。しかし、そこは冷静に、自分の思考やスキル、価値観と照らし合わせて、本当にマッチするオファーかどうかを自律的に見極めることが大切だ。

「逆求人」を成功させるための2つの方法(手法)

実際に「逆求人」を実施するうえでの方法(手法)は、大きく分けて下記の2つがある。

・「逆求人型就活サイト」を利用する
「スカウト型就活サイト」や「スカウト系就活サイト」とも呼ばれている手段で、「逆求人型就活サイト」を利用する場合、まず、サイト上に求職者が掲載した「自己PR文」を確認にする。企業側はサイトのデータベースから、欲しいと思う人材のスキルや経験などから検索し、マッチした相手へ、ダイレクトに選考オファーをかけるという仕組みになっている。これにより、企業へアピールしたいと考える意欲の高い学生を集めることができ、質の高い求職者に直接アプローチできることになる。

・「逆求人型就活イベント」に参加する
「逆求人型就活イベント」は、学生側がブースを構えたり、学生側から参加企業に対して自己PRを行ったりするスタイルの就活イベントである。これまで行われてきた企業主催の「合同説明会」のように参加企業側のブースに学生が訪問するのとは逆の流れで実施される。

 イベントの中で、採用担当者と学生が、1対1や少人数で接点を持ち、ダイレクトにコミュニケーションをとることで選考につなげていく。これまでの一般的な就活イベントのように、不特定多数に均質な情報を与えようとするのではなく、企業と学生がお互いに知りたい情報を、直接やりとりできる貴重な場となっている。

「逆求人」を実施する企業と学生側が心得ておくべきポイント

 当然のことながら、採用活動・就職活動は、企業と求職者、それぞれがあって成立するものだ。相手の立場を理解して活動しなければうまくいかない。ここでは、「逆求人」を実施するうえで、企業・求職者がお互いに注意すべきポイントを紹介しよう。

●企業側がとるべき準備

・「逆求人イベント」では親近感を意識する
「逆求人」はお互いを理解し合う場であるととらえ、学生と腹を割って話せるような雰囲気作りも大切である。「親近感」、「カジュアルさ」、そして「笑顔で接すること」といった対応を心掛けよう。

 ひと昔前に「圧迫面接」などという言葉もあったが、企業の担当者が硬い態度でいては学生が萎縮してしまう。せっかくの機会に相手を萎縮させてしまっては、本当に知りたい内面や長所、人となりや個性などを正しく把握することは不可能だ。採用する側の態度や口調については、昨今ではハラスメントと取られかねない危険性もあるため、態度には注意が必要である。

・気になる人材には積極的に事前連絡をいれておく
 気になる人材を見つけられた場合は、事前に連絡を取っておくことで、自社のことを意識させられる場合もある。逆求人イベントの当日、行き当たりばったりで学生に接するよりも、前もってどのようなプロフィールの人材が集まるのか、ある程度目星を付けておくことも重要だ。もし学生に事前連絡をしておけば当日スムーズに話を進められるし、限りある時間を有効に使って、より深い情報を引き出せる可能性も高まる。

●学生側に必要な準備

・人柄が伝わる写真を用意する
 企業がオファーを出す際、自己PRやプロフィールと同じように写真も大きな判断基準になる。「逆求人」では、従来の就職活動と同じような履歴書やエントリーシートに使う硬い写真を用いる必要はないが、従来と同様、清潔感や人柄、雰囲気がきちんと伝わる写真である必要はある。特に、下記のようなものはNGなので注意が必要だ。

・清潔感がない(服装や髪型)
・表情が暗い、元気がなさそうな印象
・他人も写っている(集合写真などの流用)
・顔が判別できないほど小さい

 撮影した写真は、自分が納得することはもちろん、他の人にも見せてみて自分らしさが伝わる写真かどうか判断してもらうこともおすすめだ。

・自己PR文(アピール文)
「自己PR(アピール文)」は、自社の採用条件を満たしている人材かどうかを採用担当者が見極めるうえで、最も注目するものといっても過言ではない。「逆求人サイト」に掲載するためだけでなく、イベントなどで実際に企業の採用担当者と会ったときにも役立つため、自分の経験や経歴、強み、知識やスキルなどを簡潔にまとめた「自己PR分(アピール文)」を用意しておく必要がある。

 これを作成する作業によって、自分の頭の中を整理したり、自己分析したりでき、実際に企業側と対話する際にも自分の言葉でスムーズに話すことができ、良い印象を与えられる可能性が高まる。反対に、ここで魅力的なアピールができなければ、オファーが届く確率は大きく下がってしまう。

  これまで慣例的におこなわれてきた企業が主となる採用活動の動きは、変わりつつあるといってよいだろう。人手不足が進むなか、求職者の応募を待つといった姿勢では、優秀な人材の獲得は難しく、採用に苦戦する可能性は高い。持続的な成長を実現していくには、「逆求人」をうまく活用していくことが鍵になりそうだ。

著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。