これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)
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平成8~10年:49~51歳
社長になって間もない、或る日の日曜日。
前日の深夜から現場に入っていた恭平は、仕事が一段落したのを機に昼過ぎに帰宅し、リビングで一人の少年に出会った。
小柄な少年は、恭平の長男・謙祐の1学年上級の友だちで4年生だった。
「おっ、いらっしゃい」
声を掛けた恭平に、顎を突き出し見上げるようにして、少年が問うた。
「おじさん、おじさんは社長ね?」
「ん、あぁ、社長だよ」
「ふ~ん。儲かっとるん?」
不意を衝かれ戸惑いながらも、恭平は真剣に考え、正直に答えた。
「えっ。う~ん、余り儲かっとらんな」
「なんじゃあ、儲かっとらんのんね」
小馬鹿にされたような反応を小さく笑いながら、恭平は訊ねた。
「お前のお父さんは、何をしとるんや?」
「父さんね。父さんは、広島で一番儲かっとる会社に行きようるんよ」
(あぁ、この少年は、自分の父親が自慢なんだ…)
恭平は妙に嬉しくなり、重ねて訊いた。
「どこの会社が、広島で一番儲かっとるんや?」
「中電よ、父さんは、中電に行きようるんよ」
「ほうか、中国電力で、何しようるんや」
「課長よ!」
「なるほどのぅ、お父さんは偉いんじゃの」