日本では、理系人材が年々減少しています。日本の学生数約60万人のうち、理系は10万人程度しかいません。しかしDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む現代で、日本の技術力を高めるためには、優秀な理系人材を増やしていくことは不可欠です。では、これからの日本企業で、理系人材が活躍するにはどうすればいいのでしょうか。そこで今回は「理系人材のやりがい」をテーマに、経営者、人事担当者、エンジニア、転職エージェントとしてそれぞれ第一線で活躍する方々をお招きして、座談会形式で本音のディスカッションを行いました。今回は前編として、理系人材の採用との現状と課題についてお伝えします(全3回)。

【ゲスト】
●本田 英貴 氏
働く人のやりがいをテクノロジーで支援するベンチャー企業、株式会社KAKEAIのCEO。リクルートで人事部を経験後、上司と部下との関係性向上に課題意識を持ち起業。自社でも、CEOとしてエンジニアが働きやすい職場づくりを行っている。

●三好 隼人 氏
おやつのサブスクリプションサービスを提供する、株式会社スナックミーのCTO。自身もエンジニアでありながら、経営サイドでエンジニアのマネジメントを行う。

●森 麻子 氏
人事のプロ。小売店、IT企業、メーカーで、人材開発・人事企画など、幅広い領域を経験している。現在は財閥系大手メーカーの人事部門に在籍。

●杉山 英一 氏
BtoB向けのシステム開発を行う、ITエンジニアとして活躍中。自ら会社を経営する。高い専門性を持ちながら、サービスづくりやマーケティングなど、幅広いビジネス分野にもチャレンジしている。

●Y 氏
ITエンジニアの転職事情に詳しいヘッドハンター。主にIT系人材の採用・転職支援を行う。今回は匿名での参加。

【ファシリテーター】
●中野 在人
座談会のファシリテーターと執筆を担当。大手上場メーカーの現役人事として培った経験や知見を交えつつ、中立な視点で場を仕切る。

理系人材の現状と課題について、正直なところどう思う?

中野:本日は「理系人材のやりがい」をテーマに、日本企業で理系人材が活躍するためにはどうすればいいのか、現場視点からみなさんのお話をお伺いしたいと思います。いま日本では理系人材が減少しつつある一方で、大手の日本企業では、入社後すぐには活躍できない現状もあると聞いています。日本が技術力を高めるためには、理系人材の人口とともに、活躍の場も増やすべきだと考えていますが、実際のところはどういった状況なのでしょうか? まずは現状と課題について、みなさんのお考えを率直にお聞かせください。

Y:私は主にITエンジニアの中途採用支援を行っているんですが、日本企業では、理系出身のエンジニアも文系出身のエンジニアも、実力があれば同等に評価されると感じています。片や外資系企業は学歴重視で、理系の大学院卒でなければ採用しない企業もあるほどです。ところが、日本企業も最近になって、エンジニアの学歴における「理系」をやっと意識しはじめたように思います。

森:私はこれまで大手IT企業などで育成を担当してきましたが、海外でエンジニアを現地採用する際は、外資系企業とよく争奪戦になりました。また、学歴に関係なく、工学系エンジニアは絶対数が少ないので、採用が難しかった印象です。

本田:私は、上司と部下の関係性をテクノロジーで解決するためのソリューション「KAKEAI」を提供するベンチャー企業で、CEOをしています。たしかに弊社でもエンジニアの採用は難しいですね。そのため、CTO(最高技術責任者)以外はフリーのエンジニアに活躍してもらっています。働き方が多様化する現代では、フリーのエンジニアの中にも、フルタイムでコミットしてくれる方がいますから。

 また、エンジニアの方にやりがいがある仕事を提供し続けるのは、なかなか難しいとも感じています。そのため、「採用・雇用」という関係で会社がやりがいを提供するのではなく、お互いに対等な関係を築く、という発想の転換も必要ではないかと思います。

中野:一口に理系の採用や育成といっても、日系や外資系、業種や業界、はたまた大企業かベンチャー企業か、で事情が違うようですね。成長の早いベンチャーは、起業時、新規事業展開時など「段階に合わせて人が変わる」といった離職の問題もありそうですが、実際のところはどうなんでしょうか?

本田:もちろん離職の怖さはあります。ただ、ベンチャーは事業を成長させていけば、そこに仕事の面白みが生まれるはずです。ですから、離職よりも事業を成長させることに目を向ける方が、経営者として重要だと考えています。

中野:経営者や人事担当者からすると、「やりがいや働きがいをいかにつくるか」は、日々考える課題だと思います。では、エンジニアの方々は実際にどう考えているのでしょうか? 理系出身と文系出身の違いを感じることはありますか?

杉山:私は現在、自分で会社を経営していますが、経歴としてはずっとIT業界で仕事をしてました。エンジニア云々というよりはIT業界全体の話になりますが、正直なところ、あまり文系出身・理系出身は関係ないと感じています。文系でも地頭が良ければエンジニアになれるし、理系でも手が動かなければエンジニアにはなれません。そのため、IT業界でいえば、普段からあまり文系・理系を意識して仕事をすることはないのではと思います。

三好:私は、おやつのサブスクリプションサービスを提供するスナックミーという会社でCTOをしています。弊社の場合、おやつの製造から出荷までを一気通貫で行います。そのため製造から出荷までのプロセスに関わるので、単なるエンジニアではなく、今まで携わってこなかった領域でも進んでインプットとアプトプットできる方を求めています。私としては、専門性の高い仕事に関しては、やはり理系人材がいいんじゃないかと考えています。先日、機械学習のエンジニアが入社しましたが、やはり専門分野を極めた人材は、情報収集力も応用力も高いですね。