スペシャリストか、ジェネラリストか。理系を活かすマネジメントのあり方とは
中野:理系で専門性の高い人材は問題解決力も高いですし、実際に社内で優秀と言われている方が多いと、私も人事担当者の立場から感じています。同じ人事として、森さんは理系の専門性についてどう思いますか?
森:たしかに理系出身で専門性の高い方は、知識の吸収が早く、配属先での立ち上がりも早いと感じます。しかしながら、文系出身でも、環境が合えば地頭の良さを生かして活躍しているイメージはありますね。文系でも理系でもエンジニアであれば、入社時研修は半年から1年かけて基礎から教えるといった具合で、丁寧に育成の機会を与えていますが、理系は即戦力になりやすいという特徴はあるのかもしれません。
本田:理系人材の質が組織のパフォーマンスに直結しやすいのはたしかですよね。文系出身者は、どうしても専門性の面でやれることが限られますし。一方で、文系も理系も関係なく、育成は重要です。どちらの人材も、きちんと育てることでパフォーマンスを発揮するのではないでしょうか。人をどう活かすかは、マネジメント側の関わり方が大きく影響しますから。ただし、理系の方をマネジメントするのは難しいと感じています。マネジメント側は、本人よりもスキルや知識の専門性を高めていなければいけませんから。
中野:私もこれまで、上司の専門性が足りないことについて、社員から不満の声を聞くことがありました。三好さんは「部下よりも高い専門性を持つこと」に関して、CTOとして苦労されている部分もあると思いますが、いかがでしょうか?
三好:やはり、ある程度の知識は押さえておく、ということは意識しています。知らなかった分野や新しい分野は、後から追いかけるような形になってでも、上司としてしっかり学びつつ、部下にもフォローしてもらう体制がいいかな、と考えています。新卒で入社した会社では、私自身が上司に対して「自分よりも専門性がない」と感じていました。上司が知らないと部下はついてこない、とその時に感じたので、現在のCTOという立場では、最低限の知識は持っていようと心掛けています。
本田:最近は特にITの分野で、機械学習などの新しい分野が次々と出てきて、上司も学ぶのが難しいですよね。そのような時代の流れの中で、理系人材をマネジメントするにはどうすればよいのでしょうか?
三好:上司ができる範囲と部下が得意な分野を、融合させていくことが重要ではないでしょうか。例えば私自身はクラウド技術が得意分野なのですが、そこに機械学習が得意な部下の知識・スキルを組み合わせていく。そして部下にもクラウド技術を覚えてもらう。そうすることで、部下の仕事の幅が広がり、会社の成長スピードもさらに加速させることができると思います。特定分野に強い人材が、それぞれの分野に限った仕事をしていると、属人的な組織運営にもなります。お互いの専門性を融合させていくことで、人に任せにしない仕事の進め方が実現できますよね。
中野:上司と部下の専門性をうまく融合させていくことができれば、仕事のパフォーマンスも上がりそうですし、人間関係も非常にいい状態になりそうですよね。ですが、現実は会社と理系人材の関係がうまくいくことはあまり多くないように感じます。それが転職につながることもあると思いますが、現状はどうなのでしょうか?
Y:実は理系人材は、ジェネラリストになることへの強い不安を抱えている方が多いです。この傾向は、特に大手企業の30~40代に多いように感じています。プレーヤーとして手に職をつけてきたことに自信をもっているのに、キャリアを積み職位が上がるにつれて、エンジニア以外の仕事もしなければならなくなる。大手企業の方は、これまで培った技術を諦め、管理職になるべきか悩んでいる方が非常に多い印象です。
さらに、自分自身の技術に誇りをもっていても、その技術に対して会社からの理解がないと活躍はできない。それがモチベーション低下につながり、転職理由になっている場合もあります。
森:理系人材はジェネラリストではなく、スペシャリストでいたい方が多いんですね。ですがスペシャリストの道を究めると、「お客様に提案する」といったスキルを磨く機会がなくなり、自分の専門性の中に閉じこもっていきそうな気もします。杉山さんは、実際にエンジニアとしてお客様に提案活動も行っていますよね。専門性と総合力は両立可能なのでしょうか?
杉山:私は、仕事は基本的に何かを「つくる」ことだと考えています。例えば、製品開発に限らず、サービスをつくることもありますし、お客様との関係をつくることもあります。つまり「つくる」という観点から考えれば、理系的な脳はどんなことにも応用ができるはずです。私がいまやっている仕事も、単にシステム開発をしているのではなく、お客様のビジネスをつくる仕事だと考えています。このように、常に「つくる」ことにフォーカスしています。
Y:杉山さんご自身は、専門性の中に閉じこもってしまうことはなかったのでしょうか?
杉山:私自身は、専攻は応用数理で大学院を修了しました。そういう意味では専門性が高いと思います。独立当初は世の中の流行もあり、AI領域での起業を志していました。ですが、専門性が高いということは、それだけ市場ニーズに対しての幅も狭くなります。それよりも、ビジネスを「つくる」ことにフォーカスすることで、もっとお客様のニーズに応えられる幅が広がると考えました。
中野:理系人材に対しては、専門性を活かしつつも、仕事の幅がより広がるようなマネジメントをしていくのがよさそうですね。