今回はジャストインタイムの効果を数値で評価する「Jコスト論」を紹介します。

 どの企業も、熾烈な市場競争の中で生き残りを懸けて、「ムダ取り」「生産革新」など様々な呼び名で現場改善に取り組んでいます。現場改善の着目点として、「Q(品質)管理」「C(原価)管理」「D(納期、リードタイム)管理」が3つの要素として知られています。

 この中で、Qの管理を最優先するのは誰も異存のないところです。では、CとDの管理はどちらを優先して取り組むべきでしょうか。ここに「本流トヨタ方式」の考え方の特質が出てきます。

製造原価の低減は現場を傷める

 最近は米国型の管理手法が定着し、四半期ごとに経営が評価されるので、短期志向で利益を重視する傾向が強くなっているようです。現場改善においても、実態をどれだけ正確に反映しているかは疑問ですが、とりあえず結果が利益と繋がる数値として出てくるので、ほとんどの会社でCの管理、つまり「製造原価の低減」に重点を置いています。

 ところが、製造原価の低減には、「技能の低下」や「設備の劣化」「品質保証度の低下」といった副作用が出てきます。それらは数値化しにくいので無視されがちです。そのため、取り返しがつかないところまで現場を傷めてしまった会社の例も耳にします。

 どうして製造原価の低減が現場を傷めてしまうのでしょうか。

 製造原価の内訳を考えてみましょう。現場で改善できる製造原価は、労務費が主なものとなります。ただし、多くの会社で採用している全部原価法では、仮に労務費の原単位が 4500円/時 であったとしても、賃金等の純粋な人件費は2000円程度で、残りは工場の維持管理費用であったりします。

 「請負作業にすると労務費が 3000円/時 に安くなる」という話に乗ってしまう企業が多いのですが、会計に明るい人が見ると、内製では 2000円/時 で済む仕事を、請負にしてわざわざ 3000円/時 を払っている姿が見えます。しかもその作業のノウハウが途絶え、現場の連携が切れる危惧があります。

 実際に現場で行う改善としては、例えば設備や製品のチェック頻度を減らし、「○○円/分」「○○円/日」改善といった具合に数値にして積み上げていくことになります。

 数値だけを見ていると大きな成果が得られたことになるのですが、一歩離れてみると、要員が減っていません。従って支払い労務費は同じです。しかも、本来やるべき仕事を「必要性が数値化できないから」と言ってどんどん減らし、手待ち時間を増やすことになります。「製造原価の低減が現場を傷める」とは、こういうことなのです。

本流トヨタ方式では在庫を減らすことを優先

 一方、本流トヨタ方式では、次のように教えられます。

 「現場改善の要諦は、自働化や品質保証体制によってQを確保した上で、Dの管理(ジャストインタイムによるリードタイム短縮)に専念することにある。そうすれば現場は強くなるし、C(収益)は後からついてくる

 「D(リードタイム短縮)に専念する」は、具体的に言うと「徹底的に在庫を減らす」ことに他なりません。

 どうやって在庫を減らすのでしょうか。正味作業量が1.9人工の仕事を2人でやっている工程があるとします。その場合は、手待ちの0.1人工で段取り替えをすることで、在庫を減らします。段取り替えにさらに0.1人工かけた方がよいと分かれば、作業改善を進めてその工数を稼ぎ出し、さらに在庫を減らしていくのです。

 ここで、1.9人工の工程を0.1人工改善して正味1.8人工にしても、2人という配置人数は変わりません。おまけに、1人当たりの手待ちが増えるだけです。それなら、むしろやらない方がいいのです。

 一方、正味1.1人工の仕事を0.1人工分改善して1人でできるようにし、手の空いた1人をライン外に出すのは効果があるでしょう。つまり、本流トヨタ方式では「改善は必要に応じてやれ!」と教えられます。

 設備にも同じ考えを展開します。例えばプレス機の今月の負荷が80%であるとすれば、余った20%の余力をすべて段取り替えに使って、1回の生産ロットを「1週間分→4日分→3日分→2日分」と減らしていくのです。