コロナ禍では、遠方ではなく近隣を巡るマイクロツーリズムが注目されている。とはいえ、観光客を受け入れる地域にとっては、近くに住む人、いわばその地域をある程度知っている人を呼び込むのは簡単ではない。新鮮な“まち”の魅力を打ち出さなければ、足を運ぶ動機になりにくいからだ。そこで大切なのが、まちの歴史や成り立ちを掘り起こし、地域の「個性」を磨き直すことと言える。
「たとえば温泉まちは全国に数々ありますが、それぞれまったく違う趣や特性、歴史を持っています。決して一括りにすることはできません。そういった背景をきちんと見直すことで、地元の人さえ知らなかったまちの魅力を磨き直せるのです。それは今後のまちづくりにもつながります」
こう話すのは、都市工学の専門家である國學院大學新学部設置準備室長の西村幸夫教授。観光を起点としたまちづくりを考える同氏は、日本の温泉まちの違いをどう捉えているのか。詳しい話を聞いた。
【前回の記事】地域の歴史を見直すことが、観光業飛躍のカギとなる(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62840)
伊香保温泉の有名な石段は、封建制の面影でもある
――今回は“温泉まち”にスポットを当てて、歴史や成り立ちから各地の魅力を伺えればと思います。
西村幸夫氏(以下、敬称略) 本題に入る前に、温泉まちは、それ以外のまちとは発展していく理屈が違うことをご存じですか? 温泉は、今でこそ掘削技術が進んだものの、昔は自然湧出する場所に作るしかありませんでした。他のまちは「開発に適した広さがあるか?」「他のまちとのアクセスは良いか?」「安全か?」などが発展の大きな要素となりますが、温泉まちは「そこに温泉が湧き出ているか」が唯一に近い要素となります。だからどんなに狭い場所でも、アクセスが悪い場所でも温泉まちはできるのです。
次に発展の大きな要素となるのは2つ。湧き出た温泉が「誰のものか」ということ、そして温泉の湧き出る量、つまり「湧出量」です。