コロナ禍で大きな打撃を受けているのが観光産業だ。近年盛り上がったインバウンドの風向きは変わり、悲鳴を上げている“まち”も多い。
そんな中、アフターコロナを考える上で、まちのあり方はどうあるべきなのだろうか。そこで話を聞いたのが、日本の都市工学の第一人者であり、現在は國學院大學新学部設置準備室長を務める西村幸夫教授。日本イコモス国内委員会委員長なども歴任した同氏は、アフターコロナにおける「観光を起点としたまちづくり」を考えているという。
とはいえ、彼の言う「観光」は多くの人がイメージするものとは異なるかもしれない。そもそも、観光のあり方を改めて問い直すことが、今回のような有事や災害からも立ち直れるまちづくりにつながるという。具体的な例を出してもらいながら、西村氏の考えるこれからのまちづくりを聞いた。
新たなまちの魅力をゼロからつくるのではなく、あるものを磨き直す
――コロナ禍で観光産業は厳しい状況になっています。特にインバウンドの激減は顕著ですよね。
西村幸夫氏(以下、敬称略) そうですね。海外や遠方の観光客が減る中で、マイクロツーリズムが重要になっています。これは近隣を巡る短距離観光のことですが、マイクロツーリズムで人を集めるのは、地域にとって簡単ではない。近隣は「いつでもいける」「十分知っている」と思って動かない人も多いですし、遠方への旅行に比べると、どうしてもお金を消費しにくいためです。
しかし、自分では「熟知している」と思っている近隣のまちでも、実は知らないことがたくさんあります。このまちはどんな風に生まれたのか。なぜこの場所に大きな通りがあるのか。なぜここに駅ができたのか。あまりに当たり前すぎて考えないかもしれませんが、その歴史をきちんと掘り起こすと、まちは物語にあふれていることに改めて気づくはずです。それが、マイクロツーリズムでは大きな可能性になります。
――まちの成り立ちや歴史を見直すということでしょうか。
西村 はい。私は都市工学、まちづくりを専門にしてきました。観光というと、新たな施設やお店、あるいは何か新たなまちの魅力を用意してPRすることも多いですが、このやり方だと、そのまち固有の魅力が出づらい。他の地域に似た既成の観光商品になってしまう。むしろ、元からあるまちの歴史や魅力を磨き直す方がはるかに効果的です。大きな投資は必要なく、しかもその地域にしかない個性が出る。まちの歴史を紐解けば、ひとつとして同じ地域はないのです。
さらにその手法は、観光客だけでなく住民にも効果があります。今まで知っているつもりだった場所、通り、馴染みの地名がまったく違う意味を持ってくる。すると、住民がそのまちを知り、愛着や誇りを持つことにつながります。