なぜ、今「イノベーション」が注目されているのか

 言葉の来歴や概念・定義を抑えたところで、次に、なぜ現在、「イノベーション」に注目が集まるようになったのか、その理由や背景などを確認していこう。主な理由は下記の4つである。

・大きな経済成長
「イノベーション」に成功した企業は、莫大な経済的成果を得る傾向が大きい。そのため、企業が成長を促進し、維持していくために、新たな価値創造するイノベーションを求めることは当然だ。つまり、イノベーションを成功させ、新たな市場開拓ができれば、収益拡大と維持につながるのだ。

・企業課題の解決と生産性向上
 日本に限らず、「人手不足」は企業の大きな課題となっている。人手不足の結果、長時間労働や健康経営の阻害など、社員と企業どちらにとっても良い影響は生まれない。例えば技術面でのイノベーションによって新たな生産方式を確立することで、社員の生産性向上や労働課題の解決を目指している企業は大変多い。

・企業規模にかかわらない市場独占の可能性
 イノベーションによって生まれた新たな商品(製品やサービス)によって、新しい価値創出、市場開拓を可能にする。イノベーションを起こせば、競合他社がまだ参入していない市場を一時期であっても独占することが可能になる。この「市場独占」の可能性は、資本力の小さい中小企業や個人事業にも等しくあり、大企業に対抗しうる機会にもなるだろう。既存の市場では競争できなかった小規模な企業にとっても、イノベーションの成功は魅力的な取り組みなのである。

・国内外での市場競争の優位性獲得
 企業にとって、市場競争における「優位性獲得」は、戦略的事業の肝ともいえるだろう。例えば、新技術の特許を取得することは企業の大きな強みになり、顧客に新たな価値を提供することにもつなげられる。さらに、既存顧客に対するメリット提供だけでなく、新規顧客獲得にも重要な要因となる。もちろんこれは国内に限らず国外に対しても有効で、グローバルな優位性獲得も視野に入れられるだろう。

「イノベーション」を起こすための3つの企業課題

 グローバル化が進み、新興企業の台頭や技術革新など、これまで日本企業が保っていた「競争優位性」が失われつつあるといわれて久しい。新たな市場開拓を成功させたイノベーション事例は確かに少ないのが実情だ。日本が誇る技術力はいまだに高い評価を得ているというのにイノベーションが生まれないのは、日本企業に独特の課題があるからではないかといわれている。それでは、日本企業がイノベーションを起こし、成果を上げるための「課題」とはどのようなものだろうか。

・継続可能なイノベーション維持ができていない
 技術革新や市場環境の急速な変化に対応するためには、「一度イノベーションを起こせたらもう安泰だ」という思考ではいけない。企業の成長維持のためには、「継続的なイノベーション」と「新規顧客と市場の開拓」を常に続けていく必要がある。日本企業は、既存の製品・サービスを高機能化させる方向での持続的イノベーションをやめられない傾向が強いが、既存商品のグレードアップでは、日々新たなものが生み出される現状には対応できず、だんだんと競争力が下がってしまうのだ。これも、日本企業が抱えるイノベションに対する課題のひとつである。自社商品がもついわば「寿命」をきちんと認識し、適切なイノベーションを実施することが必要だ。

・「イノベーション・マネジメント」導入が遅れている
 イノベーションに関する企業の意思決定は、何よりも「スピード」が大切だ。アイディアやビジネスモデルの創造、そして事業化するまでのプロセスを迅速にしなければならない。つまり、既存事業を持続させようという考えでは、イノベーションが起こりにくいのだ。そこで、イノベーションをいち早く起こすことに特化した「イノベーション・マネジメント」の迅速な導入、労働環境を変化させることが重要になる。

・社内制約と企業ローカル文化による消極的な姿勢
「成果主義」を標榜する企業が増えつつあるが、日本企業にはまだまだ旧態依然とした前提による人事評価制度が習慣として残っているといえる。失敗を恐れて、積極的なチャレンジよりも会社方針に従順にすごすことも旨とする社員も増えているようだ。また、コロナ禍で顕在化したように、規模の大小にかかわらず、社会情勢や市場の変化によってたやすく経営悪化に陥るので、「寄らば大樹の陰」という気持ちは強まり、必要な衝突であっても避けてしまう傾向がある。イノベーションの阻害要因として、これらの閉鎖的な企業ローカル文化や足並みをそろえたがる社員のマインド、企業制約が指摘されている。